「触法精神障害者」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。「凶悪な事件を起こす危険な人」「怖い人」と思っているなら、誤った認識だと強調したい。早期に適切な支援があれば、事件を起こさなかっただろう人たちである。
善悪が判断できない状態で殺人や強盗など重大な他害行為を行った精神障害者は、その障害ゆえ刑事責任は問われない。代わりに入通院で必要な専門的治療が提 供され、司法と医療、福祉が連携して再発防止と社会復帰につなげる。それが「医療観察制度」だ。大阪府の小学校で児童8人の命が奪われた事件を機に、 2005年に制度化された。
だが丸9年が経過したにもかかわらず、社会復帰がスムーズに進んでいない。適切な治療を受け、病気との向き合 い方を身に付けても、地域の受け皿となる医療機関と障害福祉サービス事業所に「また事件を起こされる」といった偏見や理解不足がある。グループホームへの 入居を断られたり、就労訓練を受ける施設への通所に難色を示されたりするケースは少なくない。
県内の支援関係者有志でつくる「県モデル活 動研究会」がことし2月に医療機関と福祉事業所を対象に行ったアンケートでは、「支援の実態を知らない」「他の利用者や近隣の理解を得るのが難しい」と いった回答が寄せられた。精神障害者と日々関わっている専門職であっても、触法精神障害者への理解は浸透していないのが実情だ。
同研究会は7月からホームページを開設し、情報発信を続けている。支援態勢をコーディネートする保護観察所の社会復帰調整官や医療機関へのインタビューを掲載しており、今後は事例紹介や当事者家族の声も紹介していくという。
ただ、偏見の解消は国の責務であり、障害の支援は自治体の役割だ。民間任せにせず、より積極的に情報発信や啓発を行ってほしい。
検察庁にも注文したい。心神喪失などを理由に不起訴処分とし、制度の適用を裁判所に申し立てても、その事実を明らかにしないケースがある。それでは「精神 障害者は罪に問われない」という情報だけが独り歩きしかねない。事件を起こしてしまった当事者が医療と福祉につながっていることが分かれば、市民の安心感 につながる。積極的に公表すべきではないか。
【神奈川新聞】
http://www.kanaloco.jp/article/78018/cms_id/102838