一つの理由は原因と結果を分けることが難しいことだ。例えば、人工甘味料入りの製品を食べている人が、その食べているものが原因で太りすぎているのかどうかは明確でない。あるいは、太り過ぎの人たちは通常、このような製品に引き付けられているような人なのかどうかもよく分かっていない。
米心臓協会(AHA)と米糖尿病学会(ADA)が既存の科学的根拠に基づいて2012年に共同で発表した指針は、人工甘味料は「賢明に使えば、糖分の低減を促し、その結果エネルギー摂取が減って、減量につながる可能性がある」としている。
アルバート・アインシュタイン医科大学の栄養学者で、AHAとADAの広報担当者でもあるジュディー・ワイリーロゼット博士は「この指針をめぐってはひと悶着あった」と述べ、「私はこの『賢明に』という言葉を強調したい」と語った。同博士は今回の研究には参加していない。
今回の研究は、二つの研究分野―血糖値を押し上げる上での甘味料の役割と、腸内の細菌コロニーの複雑な働き―を一緒にした点で、重要な前進を示した。人の腸内細菌コロニーはそれぞれ異なっており、これは食べたものへの反応が人によって異なることを意味する。
実験では、サッカリン、スクラロース、あるいはアスパルテームを含んだ餌を食べたマウスの血糖値は、その代わりに砂糖を含んだ餌や全く糖分を含まない餌を食べたマウスに比べて、非常に高くなったことが分かった。研究者は次に、甘味料がマウスの腸内細菌のバランスを変えることによってこの代謝の変化が引き起こされたのかどうかを確かめようとした。
研究者は、甘味料を摂取したマウスあるいは砂糖を食べたマウスから採取した細菌を、自分の細菌を腸内に持たないように育てられ、甘味料を摂取したことのないマウスに移植した。その結果、甘味料マウスから移された細菌は血糖値を上げた。これは腸内細菌が、甘味料を摂取したマウスの血糖値を高めたことを示唆している。
これは人間でも起きることなのか。エリナブ博士とそのチームは、糖尿病にかかっていない380人を対象に長期的な人工甘味料の消費とさまざまな代謝の値との関係を調べた。その結果、定期的に甘味料が入った食品を食べている人の腸内細菌コロニーは、そうでない人と目立って異なることが分かった。加えて、甘味料とグルコース(ブドウ糖)不耐性になりやすいこととの間に相関関係があることも分かった。
ただ、相関関係は必ずしも因果関係を意味するものではない。次の実験では、通常は甘味料含有食品を食べない7人に、多くの甘味料が入った製品を食べてもらった。4日後、そのうちの4人の血糖値が高くなり、腸内細菌の数も変化した。マウスを使った実験と同じような結果だ。
論文の共同著者でワイツマン研究所のコンピューター生物学者エラン・シーガル氏は「この不耐性になりやすいことは人間の腸内細菌を詳しく調べることによって、予測することができる」と述べた。
これらの結果は暫定的なものだ。
人工甘味料メーカーなどの団体であるカロリー・コントロール協議会(CCC)は声明で、ネイチャー掲載の研究にはいくつかの限界があるとし、例えば、マウスの実験結果を人間に適用してはならないし、一方で人間の実験は規模が小さすぎると指摘した。その上で、さらに研究を進める必要があるとしている。
研究者たちは、腸内細菌の数の不均衡をもたらす正確なメカニズムについては明らかにできていない。しかし、人工甘味料の摂取後に変化したいくつかの種類の細菌が2型糖尿病に関係していることを発見した。
この結果は、一部の人にとって、人工甘味料は、グルコース不耐性など肥満に関係したある種の代謝の条件を減らすのではなく、むしろ増やす形で腸内細菌の構成を変えることがある、ということを示しているようだ。
ワイリーロゼット博士は「甘味料を摂取している人が必ずしも減量できないのはなぜなのか不思議に思っていた」とし、「この研究は腸内細菌に初めて着目した点で非常に興味をそそられる」と述べた。
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