[ カテゴリー:子育て ]

赤ちゃんの脳の発達に不可欠な注目成分「アラキドン酸」 母乳と同等量の粉ミルクで摂取も

乳幼児の脳の発達や神経細胞の形成に不可欠な脂質として、従来から知られたドコサヘキサエン酸(DHA)と並んでアラキドン酸(ARA)の役割が注目され、解明が進んでいる。DHA、ARAともに母乳に多く含まれる成分だ。母乳は理想的な乳児の栄養源だが、「働くママ」の増加などで母乳と粉ミルクの混合栄養が50%を超す(出産後1カ月)なかで、注目成分であるDHAとARAを母乳と同じ範囲にまで含んだ粉ミルクも登場している。

【グラフ】アラキドン酸は乳児の成長を促進する

ヒトの脳の発達は、胎児のうちから始まる。出生前3カ月ぐらいから胎児への栄養分の補給が急激になり、この時期に不可欠な脂質であるDHAやARAなどの栄養分のかなりの量が胎児に移行して脳の発達に使われる。脳の重さは、生後1歳で成人の70%、3歳で90%ができあがるといわれる。

順天堂大学大学院医学研究科の清水俊明教授は「脳神経の発達にとって、胎内の後期から生後3年、とくに生後1年までが大切な時期です。脳の重量だけでなく、機能の面からも神経細胞のシナプスネットワークの形成や神経細胞の軸策を何重にも包む髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる部分の形成が行われます。これは神経伝達をすみやかにするもので、こうした形成が、認知や理解、言葉といった能力の発達に深くかかわっています」と話す。

脳神経の発達には、ブドウ糖や必須アミノ酸、タウリン、ビタミン、ミネラルなどが必要だが、脂質では、DHAとARAが重要な影響を及ぼす栄養素であることが明らかになっている。ヒトの脳は、水を除いたときの重さの60%が脂質で、脂質のうちDHAがその17%、ARAが12%を占めていることからも、いかに脳神経の形成にDHA、ARAなどの脂質が欠かせないかが分かる。

DHAはマグロやサケなどの魚に豊富に含まれており、日本人の母乳は、世界的にもDHAの含有量が多いことが知られている。ARAは牛や豚のレバー、鶏卵、海草などに多く含まれている。神経細胞だけでなく、広く細胞膜の形成に重要で、脳神経の発達のほかに身長や体重など体そのもの生育にも大切な働きをしている。ARAは体内でも形成されるが、量はわずか。1歳未満の乳児の場合は、合成能力も弱いため母乳や粉ミルクが供給源になる。

DHAの重要性に関する研究成果に続いて、ここ数年はARAについての研究も進んでいる。脳の神経細胞は、一度できあがると後は減っていくばかりとされていたが、最近では新しい神経細胞がつくられ続けること(神経新生)が定説になっている。この神経新生にARAが関わっていることが東北大学大学院医学系研究科のグループによって報告されている。

脳の神経細胞の大部分は胎児のころに形成されるが、生後も脳機能全体に関わる「海馬」などでは、神経細胞を生み出す神経幹細胞が残り、生涯にわたって新しい細胞がつくられる。東北大学大学院の研究グループは、ラットを使って実験した結果、ARAが海馬における神経幹細胞の増殖に関わっていることを確認した。

脳神経の発達には、DHAとARAが一定の量、バランスよく含まれていることが大切であることも分かっている。両者の組み合わせの効果を示すデータがすでにアメリカの研究グループから発表されている。それによると、乳児にDHAとARAを添加した粉ミルクを与えたところ、DHAのみや無添加の場合と比較して、精神発達指標(記憶、単純な問題の解決能力、言語能力)が高かったことが分かったという。また、別の研究では、ARAが不足すると、体重や身長が増加しにくくなることも確認されている(いずれもグラフ参照)。

■「母乳と粉ミルク」が50%超

出産後の母親の心身をサポートする産後ケアに対する関心が高まっている。昨年6月に政府が「少子化危機突破のための緊急対策」を決め、自治体などでも産後ケアの強化、相談・支援拠点づくりなどが進められつつある。来年4月からは「子ども・子育て支援新制度」も本格的にスタートする。

こうしたなかで、昨年11月に国立成育医療研究センターが妊娠や出産に関する全国調査を行った。それによると、出産後1カ月の「心の状態」では、「はっきりした理由もないのに不安になったり、心配する」ことが「しょっちゅうある」「時々ある」があわせて70%にのぼった。

また、赤ちゃんへの授乳に関して「出産後1カ月間、どのように授乳していたか」を聞いたところ、どの年齢層の母親でも母乳と粉ミルクを併用する混合栄養が50%を超え、平均では55・2%。母乳のみは43・4%、粉ミルクのみは1・5%だった。

乳幼児の栄養や授乳などにもくわしい清水教授は「とくに生後1カ月までは、免疫機能にも関わるので母乳が一番いい。しかし、さまざまな理由で母乳があげられない場合は、粉ミルクに頼ることも当然ありえます。むしろ母乳をあげられないことを過剰に責めるのは良くない。最近では、母乳の成分に近づけた粉ミルクの開発が進んでいます」と話す。脳神経の発達に欠かせない脂質であるDHAとARAについても含有されている粉ミルクが発売されているが、母乳のレベルまで十分に達しているものは特定のメーカーに限られる。この点は確認の必要がありそうだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140917-00000535-san-hlth

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