東日本大震災のプレハブ仮設住宅は厳しい東北の冬を3度経て、傷みが覆い隠せない。各地でこの先も「延命」させなければならなくなり、被災者は諦めや疲労の色を濃くしている。
「あなたなら、そんな所で暮らせますか?」。宮城県石巻市の仮設住宅に暮らす男性(72)は今も怒りが収まらない。
最初に入った部屋は「朝起きるとカビの臭いが漂い、台所の天井から胞子がぽろぽろ落ちてきた」。今は別の部屋に移れたが、市に何度訴えても対応が遅かったと憤る。
岩手県陸前高田市の70代男性宅は4畳半の床4分の1ほどがカビに覆われ、交換後も再び黒ずんできた。「災害公営住宅ができるまで持ちこたえてほしい」と願う。
狭く気密性が高い仮設住宅は暖房を使う冬場に結露しやすい。カビが多発した石巻市内では6~7月、借り上げ住宅の「みなし仮設」を含む高校生以上の住民約270人を検診すると、15%の40人に気管支ぜんそくの疑いが見つかった。
検診を担った国立病院機構相模原病院(相模原市)の医師、釣木沢尚実さん(47)は「断定はできないが、カビの影響を受けたケースが少なからず存在する可能性がある」とし、健康のためこまめな換気を呼び掛ける。
仮設には弱い地盤で傾いたり、浄化槽が腐食したりした所もあり、細かな補修は日常的。岩手県は来年度から大がかりな改修に取り組むと決め、釜石市平田地区の仮設団地で8月、先行して試験的な工事を施した。
床板を切り取って調べると、居室を支える丸太のくいは腐って表面がはがれ、キノコが生えたものまであった。仮設の基礎の多くは木材で、防腐処理も省かれたため、担当者は「もっと傷む懸念がある」と話す。
原則2年の居住期間の延長を重ね、劣化する住まい。東京電力福島第1原発を抱える福島県では、終わりの見えない避難生活がのしかかる。「慌てて建てた家だから」。第1原発のある双葉町から郡山市の仮設に移って丸3年になる大谷陽子さん(65)は諦め顔だ。
別の部屋では雨漏りなどの不具合も。古里への愛着はあるのに、戻れそうな時期さえ分からない状況に力なくつぶやいた。「疲れてきたね。住む家が定まらず、浮草みたいな気持ち」
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