食事の作法を学ぶ「テーブルマナー」が注目されている。マナーを図解した絵本は大ヒット。一流レストランの親子向けマナー教室も盛況だ。子どもが「よそ行きのお洋服」を着て家族で出かけるような「ハレの日」が減ったといわれる今、なぜテーブルマナーなのか。
●高級レストランで
お盆を前にした8月の昼下がり。東京・銀座の高級レストランで開かれた「親子で楽しむテーブルマナー教室」に15組の親子が集まった。
供されるのはアミューズ(先付け)に始まり、前菜、スープ、魚、肉、デザートと続くフルコースのフランス料理。真っ白なナプキン、銀のナイフやフォークが並ぶテーブルに、自然と子どもたちの背筋も伸びる。
「食事の前にはトイレに行きましょう。食事中に立つのはあまり良くないし、一流レストランではおしぼりは出ません」と元店長でテーブルマナー講師資格を持つ冨沢慎介さんが指南する。
ナプキンの使い方やナイフの置き方などの説明が続き「ナイフの刃を外に向けるとおいしくなかったという意味になるので気をつけて」と話すと、保護者からも「へえ」と声が上がった。
友人家族と参加した東京都内の吉沢由美さん(47)は社会人になってから食事に出かける機会が多く、マナーは雑誌などで学んだという。「昔より外食の機会が多いので、娘には子どものうちに身につけてほしい」と参加した。
長男(9)と訪れた神奈川県横須賀市内の主婦(39)は「家で箸の持ち方などは教えられるが、フルコースは機会がない」と話し、「結婚披露宴でもコース料理は減ってはいますが、いざという時どぎまぎしないように教えておきたい」。
教室を開いた資生堂パーラーによると、夏休みの開催は3回目だが、今回は受け付けを始めて2日間で満席になったという。今回は大人7000円、子ども5000円だった。
●家族の思い出作り
2003年から館内レストランでの「テーブルマナープラン」を設ける京王プラザホテル(東京都新宿区)の広報、斎藤潤子さんは利用者について 「ファミリーレストランなどのカジュアルな外出が多い今、子どもに少しかしこまった雰囲気を体験させつつ、家族だんらんを楽しんでいる」と話す。
親世代はモノより思い出作りや体験に価値を見いだす世代だけに、マナーの習得だけでなく、非日常感や「家族の思い出作り」を求めているようだ。
同ホテルのプランは夏休みなどの期間中、親子で食事を楽しむ際にマナーの指南を受けられる。大人8500〜1万3000円、子ども6000〜7000円。
同様の企画は最近では都内はもちろん、札幌、名古屋、大阪など各地のホテルやレストランなどでも開催されるようになったが、今もコンスタントな需要があるという。
●ハウツーを絵本に
11年に発行して以来、増刷を続けているのが小学生向けに描かれた「テーブルマナーの絵本」(1728円)だ。現在10万部に上り、出版元・あすなろ書房の山浦真一社長も「ここまで伸びるとは思わなかった」と驚く。
内容は、和洋の食事のマナーに始まり、季節の食の楽しみ方や回転ずし店でのマナーまで幅広い。「網羅的なハウツーものを作ろう」との意図で、読者からは「知らないことが書かれていた」「本を読んだ子どもがマナーを守るようになった」などの声が寄せられているという。
山浦さんは「昔に比べてさまざまな形の外食の機会が増え、大人もマナーに迷う場面があるために、求められるのでは」と推測している。【田村佳子】
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