(真実は数字からは見えてこない)
数字は、それが持つ情報の価値が大事です。
具体的な数字を提示することで、その根幹にある問題に人々の関心や気を引きつけることもできるからです。
深刻なシングルマザー世帯の現状
情報コミュニケーションは時に「驚きのインパクト」を必要とします。その意味では、「6人に1人の子どもが貧困?」という先日の記事の見出しに多くの人が驚き、日本の経済はどうなっているのかと、人の気持ちを引きつけた価値のある数字でした。
厚生労働省の集計では、所得が標準的な水準の半分に満たない世帯で暮らす子どもの割合で、ほぼ6人に1人にあたると報告されています。
上記の「所得が標準的な水準の半分」と書かれたところですが、国税庁の平成24年度の民間給与実態統計調査の数字を見ると、平均年収は男性502 万円、女性268万円となっています。日本人の会社勤め男性の平均が500万円なら、その半分以下だから250万円以下の家庭の子どもが、今回の対象に なったのかと考えるのは正確な判断ではありません。
実際の貧困にある子どもの環境はもっと複雑で、特にシングルマザーの場合は悲惨な例もあります。もし、一握りの高所得者が日本人の平均所得の価を引き上げているとしたら、真の貧困の状況がどうなっているのかは、一般的な数字からは見えてこないことになります。
「バブル世代」が高齢者に
実は、日本の貧困に関する統計的な調査は、1965年を最後に打ち切られています。正確な理由はわかりませんが、背景には、高度経済成長とバブル景気の存在があったのではないかと思います。戦後10年ほど経(た)った1954年から始まった高度成長期は、その後約20年続きます。1965年はそのちょうど真ん中あたりです。想像ですが、日本が発展の途中にあるとき、貧困の統計はいらないと判断されたのかもしれません。
私は、生まれてから成人するまで、日本の経済成長期に育ったことになります。我々の世代が30代~40代のころ、「1985年プラザ合意」を機 に、空前のバブル景気に突入しました。それが90年の初めに崩壊してからあっという間に20年が経ち、60~70代になって高齢社会の仲間入りです。その 間に、戦後とは全く違った貧困が忍び寄っていたということになります。それは、格差の貧困です。
高齢者に手厚い年金や医療
平成21年の内閣府による経済財政報告の中に、「所得再分配は高齢者層に対してしか働いておらず、若年から中年といった現役世代においてはほとん ど再分配が行われていない」と言及されていて、年金や医療が手厚くなっているのは高齢者であるとわかります。「子を持つ親」よりも、高齢者の人口のほうが 相対的に多いという、数の問題がそこにあります。
政府の方針として、「貧困の世代間連鎖を断ち切る」と言っていますが、子どもを持つ世代の貧困が家族単位で生活不安を抱えているとすれば、連鎖を 断ち切ると言っても実際はどうしたらいいのでしょう。貧困にある子どもと親を切り離して、それぞれの生きる道を探し出すことになるのでしょうか。
「親世代の学び直し」で解決するか?
政府は、貧困家庭の支援のひとつとして、保護者に高い学歴を得られるような学習支援「親世代の学び直し」を進めるのだそうですが、本当にそんなこ とが実現可能なのでしょうか。何をすればいいのか、簡単に答えが出るものではないでしょうが、私が育ってきた日本を振り返ると、ここまで国力をあげてきた 日本が、戦後最大の山場を迎えていると感じています。
若者の貧困とその子どもの貧困、高齢者の多い社会、だからと言って、富裕層と呼ばれる人を責めるわけにもいきません。生きることにおいて、人はみな平等だからです。
東京オリンピックで景気を巻き返せることができるでしょうか。あと数年後までどのくらいこの問題を解決できるでしょう。はたして、持ちこたえられるでしょうか。
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