窃盗を繰り返して千葉地裁で実刑判決を受けた知的障害のある30代男性に対し、東京高裁が 今年2月、実刑判決を破棄し、異例の執行猶予付き判決を出したことが分かった。高裁判決は男性の社会復帰を後押しする公的な支援の存在を指摘したうえで、 「手厚い保護が効果をあげている」と更生の可能性に言及した。支援者は「福祉的支えが再犯防止に有効な場合もある。息の長い支援をしたい」と男性を見守 る。【山田奈緒】
◇自治体・施設連携 知的障害見抜き福祉の手
男性は2012年春から4回、千葉県内のアパートに干されたスポーツウエアなど9点(時価約2万円相当)を盗んだとして窃盗罪で起訴された。09 年にも同罪で有罪判決を受けており、その執行猶予期間中の再犯だったため、千葉地裁は昨年10月、懲役1年4月の実刑を言い渡した。
「なぜ犯罪を繰り返すのか分からない」。この間、父親は弁護士に相談し、高齢や障害のある出所者を福祉につなぐ公的機関で、社会福祉士らが所属する「千葉県地域生活定着支援センター」に行き着いた。
センター職員が拘置所で面会すると、男性は「何をやってもうまくいかなかった」と訴えた。中学卒業後、内装工事会社に就職したが他人との意思疎通 がうまくいかず、運送や土木などの職を転々としていた。家族は障害がある事実を理解していなかったが、職員は受け答えなどから知的障害があることを見抜 き、その後、医師の診断も受けた。
センターは福祉施設や自治体に協力を要請し、支援チームを結成。「障害に理解がない環境によるストレスが再犯の一因」として、福祉施設への入所を柱とした支援計画を裁判所に提出した。男性は保釈され、県内の障害者支援施設に入所し、陶芸の作業をしながら生活を始めた。
そして迎えた2月の高裁判決。河合健司裁判長は「施設で規則正しい生活や職業訓練などをし、社会復帰を目指す手厚い保護と支援が予定されている」と認定し、懲役1年4月、保護観察付き執行猶予4年とした。
男性は現在、施設で食事当番や重度障害者の世話も任されており、職員は「リーダー的な立場になった。今後も支援を続ける」と話す。男性は「不安だらけだったけど、分かってもらえる人に出会えて良かった。(将来は再度)会社に勤めて働きたい」と語った。
http://mainichi.jp/select/news/20140826k0000e040266000c.html