職種変更制度で回避
共働き夫婦にとって、自分自身や配偶者の転勤は、仕事上のハードルとなる。とくに子育て中の夫婦の場合は深刻で、退職にもつながりかねない。転勤、転居で仕事を辞めさせないための企業の取り組みが広がっている。
育児の手離れるまで
「子育てが落ち着くまで、転勤を気にせずに働けるのがうれしい」
明治安田生命保険で働く女性(33)は話す。
女性は、今年4月から導入された職種変更制度を利用している。この制度では、子どもが小学校に入るまでの間、総合職の社員が、転勤のない「特定総合職」に職種を変えることができる。子育てが終わったら、また総合職に戻れる。
2006年に総合職として入社した女性は、昨年11月に長女を出産した。今年4月に保育園に入れたばかり。共働きの夫と協力しながら子育てしている。
「もしも、転勤となって夫と離れ、1人で子育てすることになったら、仕事と両立できるか心配。転勤先の保育園にすぐに入園できるかも分からない」
そこで、特定総合職に職種を変更した。「転勤の不安がなくなりました」
総合職で採用される女性が増えるなか、子育て期間中の転勤に配慮する企業が増えてきた。
住友生命保険は昨年、子どもが高校を卒業するまでの間、総合職から、転勤のない業務職に職種を変更できる制度を導入した。
キリンビールは、子どもが小学3年生になるまでの間、最大5年間は転勤の回避を申請できる。同社人事部の尾白克子さんは、「育児に手がかかる時期の転勤を避けることで、退職を防ぐことが目的」と話す。
配偶者に合わせて
共働き夫婦の場合は、夫の転勤を理由に仕事を辞めてしまう女性もいる。そのため、配偶者の転勤に合わせて、勤務地の変更を希望できる制度も導入する企業も増えている。
バイエル薬品は09年、配偶者が転勤したら、別居せずに通える拠点への異動希望を申請できる制度を導入した。対象は全国のMR(医薬情報担当者)。配偶者は社外でもいい。これまでに7人が利用している。
協和発酵キリンは12年に、配偶者の転勤に伴う休職制度を制 定した。最長2年間の休暇を取得できる。休暇のあとは原則、休暇前の部署に復職できる。これまでに10人が利用した。同社の人事担当者は、「実績のある社 員は、即戦力として働いてもらえる。新人を育てるよりも、継続して働いてもらう方が会社にとっても効率的」と説明する。
共働きの増加で、転勤をためらう社員は今後も増えることが予想される。ある大手企業の人事担当者は、「すべての社員の個人的な事情を考慮し、転勤を回避させていたら会社組織が成り立たない」と打ち明ける。
武石恵美子・法政大学教授(女性労働論)は、「会社の人事政策と社員の個人的事情との折り合いを、どうやってつけていくかが今後ますます問われる。優秀な人材を確保するため、企業はより幅広い働き方の選択肢を提供しなければならないだろう」と話す。
キャリア形成にプラス
転勤を積極的に受け入れて、キャリア形成につなげる女性もいる。
日産自動車で働く小林千恵さん(46)は2005年から2年間、ブラジルに赴任し、事業計画や商品企画の仕事を担当した。夫を日本に残し、当時7歳の長男と1歳の長女を連れての転勤だった。
独身時代から海外勤務を希望していた。夫と協力して子育てしていたので、不安もあったが、長男も海外での暮らしに前向き。夫も「せっかくの機会だから頑張れ」と背中を押してくれたという。
ブラジル赴任中はベビーシッターなどを活用しながら、仕事と 子育てを両立させた。小林さんは現在、多様な人材を活用するダイバーシティを推進する部署の室長を務める。 「社員の事情や希望は尊重するが、会社は性別 や既婚独身を問わず適材適所で転勤を命じている。新たな環境で仕事をすることはキャリア形成の面でもプラスになることが多い」とチャレンジすることを勧め る。(竹之内知宣)
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