万引きや無銭飲食など比較的軽微な犯罪を繰り返す高齢者や知的障害者の社会復帰支援に、検察が力を入れている。
福祉の専門家と協力して、福祉施設などの受け入れ先を確保した上で、起訴猶予にしたり、執行猶予付きの判決を求めたりする取り組みだ。
国民生活の安全を守るために、再犯を防ぐことは重要である。服役させるだけでなく、容疑者や被告の状況に応じた再犯防止策を模索し、社会内での立ち直りを促そうという狙いは理解できる。
東京地検では昨年1月から、社会福祉士を非常勤職員として採用し、担当検事に具体的な支援方法を助言してもらっている。
例えば、万引きで逮捕された高齢の男性は、認知症が疑われたため、起訴猶予にして介護施設に入所させた。この1年半で、350人以上が、刑務所に収容されず、福祉や医療の支援を受けた。
長崎や大津などでは、精神科医らでつくる委員会が被告の障害の程度を調べ、地検がその報告書も参考に求刑などを決める。仙台など20地検は地元の保護観察所と連携し、保護観察官が容疑者の釈放後の住居探しにあたっている。
福祉のネットワークや専門的知見を生かす試みと言えよう。
背景には、高齢者や障害者の再犯が後を絶たない現状がある。
法務省の犯罪白書によると、刑務所に入所する高齢者はほぼ一貫して増えており、2012年は20年前の5倍を超えた。その7割以上が再犯者だった。
知的障害の見られる受刑者を抽出調査したところ、平均の入所回数は3・8回で、5回以上入所しているケースも目立った。
こうした人たちは、刑務所での服役が更生に結びついているとは言い難い。刑期を終えても、居場所がなく、生活の見通しも立たないと、再び犯罪に手を染め、刑務所に逆戻りしてしまう。
凶悪事件の犯罪者には、厳しい刑罰を科さなければならない。ただ、事案によっては、福祉的な観点を取り入れた処遇を用意することも、治安対策上、有効な手法の一つだろう。
刑務所の過剰収容を抑え、コストを削減できる側面もある。
課題は、受け皿が十分に整っていない点だ。法務・検察は厚生労働省や自治体と連携し、協力施設を増やす努力が欠かせない。
福祉の支援を受けた人がきちんと更生し、再犯の抑止につながったのか。検察には、効果の検証も求められる。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140822-OYT1T50158.html