小児医療の拠点、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)が、重病や重い障害で在宅療養する子どもを一時的に預かる「レスパイトケア施設」を2016年に開く。同センターによると、公的な病院では全国初で最大規模の施設。施設の需要が高まるなか、開設や運営の資金繰りが厳しく、普及は進んでいない。
同センターは小児・周産期医療を担う国内最大の医療機関。治療を受けたことのある子のうち、自宅で人工呼吸などの医療的ケアが必要な子は200~300人。新施設では、こうした子が看護や介護を受けながら、学んだり遊んだりできる。家族も泊まれる。終末期の子や余命の短い新生児と家族も受け入れる。
計画によると、施設は3階建て、延べ床面積約2100平方メートル。1階は遊び場、学習室、談話室、台所、2階は居室、3階は多目的室、屋上庭園がつくられる。工事は来春から始める。
受け入れ対象は新生児~18歳とその家族。定員は子ども14人。1回の利用は基本的に1週間まで。費用は子ども1人あたり1泊3千円ほどを検討する。「第二のわが家」と感じてもらうため、看護師は白衣ではなく普段着で接する。リハビリ専門家、社会福祉士も常駐する。
総事業費7億8800万円のうち7億5千万円を寄付でまかなう。
同センター総合診療部長の阪井裕一医師(59)は「医療の目的は、病気を治すことだけではない。子どもと家族を幸せにすることだ」と話す。
■資金難、普及には壁
同センターが日本小児科学会の調査をもとに推計したところ、在宅で医療ケアが必要な子は全国に1万~1万3千人いる。
同センターに通う横浜市の蔭山愛恵(めぐみ)さん(17)は先天性難病のコルネリア・デ・ランゲ症候群を患う。目、耳、手足が不自由で、知的障害もある。母親の真知子さん(42)はレスパイトケア施設に期待する。「娘が風邪をひけば、私が数分ごとに、たんを吸引する。親も疲弊する。娘にも安心できる施設でくつろいでほしい」
設備が整った施設は数えるほどしかない。国内初の小児緩和ケア専門病棟として2012年11月に開設された大阪市の淀川キリスト教病院の「こどもホスピス病院」。全12病床のうち半分がレスパイトケア用だ。開所から満床が続く。鍋谷まこと院長は「全国的に施設が足りない。介護する家族を社会で支える必要がある」と言う。
運営は赤字。重病の子どもに対応するため、看護師を多く配置するためだ。「資金面の厳しさが普及を阻んでいる」
既存の施設は小規模な所が多い。東京都足立区の「療育室つばさ」では、0~6歳の重度心身障害児を日中だけ預かる。定員は5人で職員が一対一でつく。運営するNPO法人の矢部弘司さん(38)は「疲れと将来の不安で精神的に追い込まれた家族を見てきた。そんな家族を救い、子どもの発達を支援したい」。
■相談支援義務化
5月の児童福祉法改正で、慢性的な病気の子と家族に対する相談支援が、都道府県などに来年から義務づけられる。
国は、自治体に患者、保健所、病院、NPOと連携して協議会を設置することを求めている。自治体は任意の事業として、一時預かりや病院付き添い援助などに取り組むことになる。
(橋田正城)
■人員確保が課題
聖路加国際大・及川郁子教授(小児看護学)の話 レスパイトケアは、介護をする親がリフレッシュできるだけでなく、子どもがいろんな人と出会い、社会性を身につけられる。
施設には様々な医療処置に対応できる職員を配置する必要があり、人員確保が難しい。大規模な施設をつくればよいという話でもないので経営も難しい。普及が進まない一因となっている。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11310887.html?ref=nmail_20140822mo&ref=pcviewpage