人は必ず死ぬ。ということは、言い方を変えれば、生きているということは死に向かって歩んでいるということになる。とすれば、健康とは「死への歩み」をできる限り長くすることである。
しかし、ではどのようにすればそれがかなうかといえば、その方法は千差万別と言っていい。100人の人間がいれば、その中には太った人もいるし、痩せ気味の人もいる。毎日ジョギングを欠かさない人もいれば、運動などほとんどしない人もいる。
このように人間はみな違う体形、生活習慣を持っているので、万人共通の健康法、長寿法などないといえるのだ。
しかし、現代社会は「健康情報」「長寿情報」が氾濫している。たとえば、「長生きしたければ」というキーワードで検索すると、あらゆる方法が出てくる。また、この枕詞(まくらことば)を使ったタイトルの本が多いことに驚く。
例えば、「ふくらはぎをもみなさい」「肉を食べるな」「朝食を抜きなさい」「医者にかかるな」「朝3時に起きなさい」「余計な検査は受けるな」といくらで も挙げられる。健康本、長寿本というのは、あるとき突然ブームになり、しばらくして忘れられるということが繰り返されている。
それで、私も患者さんなどから「先生、いったいどの本を信じればいいのですか?」とよく聞かれる。そうしたとき、私の答えは1つである。
「信じてもいいですが、信じ過ぎてもいけませんよ」
つまり、健康や長寿に正解はないのだから、1つの方法にのめり込んではいけない。ほどほどがいちばんいいということを言っている。
ただ、そうは言っても多くの人は納得しない。「やはりたばこはやめるべきですか?」「運動は絶対必要ですか?」「肉より野菜を多く取った方がいいですか?」などと聞いてくる。
現代人は、常に正解を欲しがっているのだと、つくづく思う。だから、いくら正解などないと言っても聞いてくれないのである。
そこで、そういう人には、「60歳(還暦)まで生きてきたのなら、基本的にその生き方を変えるべきではない」と答えることにしている。とくに65歳まで大 病をせず、普通に健康で生きたなら、健康法・長寿法など必要はない。「これまでと同じように生きていけばいい」と言っている。
実際、私はすでに67歳だが、昨日と同じことを繰り返し、新しいことはなにもしていない。これまでの生活習慣を一気に変えるような食生活、運動などはしていない。
「生活習慣病」という病気とは呼べない病気がある。糖尿病、脂質異常症、高血圧が、3大生活習慣といわれている。この生活習慣病というのは、文字通り、そ れまでの食生活や睡眠、運動、喫煙などの生活習慣の積み重ねによって引き起こされるものだ。心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、がん、腎臓病、肝臓病、歯周病など も、生活習慣病とされている。つまり、これは病気というより、「老化」である。
とすれば、65歳まで何事もなく来たのなら、生活習慣に とくに問題はなかったということである。だから、太り過ぎだから運動して痩せよう、塩分の取り過ぎだから控えようなどと、突然、「健康志向」になって、生 活を変えてはいけない。そのほうが、かえって寿命を縮めるのだ。
■富家孝(ふけたかし) 医師・ジャーナリスト。1947年大阪生まれ。1972年慈恵医大卒。著書「医者しか知らない危険な話」(文芸春秋)ほか60冊以上。
http://www.zakzak.co.jp/health/doctor/news/20140810/dct1408100830003-n1.htm