肥満症の原因はさまざまで遺伝的な要因もあれば環境要因もある。環境要因のなかでは、食生活と運動不足などの生活様式が重要な発症基盤となっている。
2003年のWHO(世界保険機関)の報告書では、肥満を増加させる食生活として、高カロリー食品、動物性脂肪に多く含まれている飽和脂肪酸、ファーストフード、砂糖が添加された飲料水の過剰摂取が挙げられ、減少させる要因として食物繊維の多い食事や野菜や果物の摂取が挙げられている。
現代人はカロリー制限が難しい環境の中で生活しているが、その様な環境の中でも健康的な体型を保てる人は沢山いる。それでは、痩せ身の人と肥満の人では食生活の行動制御にどのような相違点があるのだろうか。最近、ネズミの実験で肥満のネズミでは甘みを感じ取る味覚細胞が減少していることが報告され話題を呼んでいる。
米国ニューヨーク州立大学バファロー校の生物科学科のアマンダ・マリフォル博士らの研究チームは25匹の正常マウスと高脂肪食を10週間摂取させ肥満にした25匹のマウスを対象に末梢味覚受容体細胞の神経伝達の効率を検討し、肥満が味覚に及ぼす影響を調べた。味覚細胞には甘み、旨味、苦み、酸味を感じる細胞があり、それぞれ違った受容体を持っていることが知られている。
実験の結果、肥満マウス群の味覚細胞は正常マウス群に比べて甘みだけでなく苦みに対しても反応性が低下していることが分かった。
しかし、旨味に対する両群のマウスの味覚細胞の反応には差を見いだせなかった。マリフォル博士らは肥満マウスでは甘みを感じる最初のステップでの反応性が低下することにより、甘みに対して鈍感になり、スイーツや甘い飲料水を過剰に摂取してしまう可能性を指摘している。
■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て2007年より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など100冊を超える。