プレジデントFamily 2014年夏月号 掲載
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「とにかく、だるい」 主婦Aさん(43歳)
定期健康診断で来院したAさん。
何か気になることはありますか? と聞くと「最近疲れやすいんです」と言う。
問診をしていくと、6カ月前から、続いているという。
そのほか「日中、家事を一通りこなすと、すぐに横になりたくなるんです。
なにかよくない病気でしょうか」と不調を訴えた。
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だるさなら、私もよく感じる。40代女性なら誰もが感じる症状だろう。しかしAさんは日常生活に支障があるようだ。可能性がある病気は、うつ病や貧血、甲状腺機能低下症、更年期障害。Aさんは血色がよく、むくみもなく、生理も順調だったので、後者の3つは可能性が低い。
一方でAさんには「やる気の低下」「気持ちの落ち込み」という、うつ病の症状が当てはまった。問診をしていくと「小学生の息子の成績のことで悩みは尽きない」「些細なことで子供に怒鳴ってしまう」というのだ。
しかし「睡眠はとれていますか?」という質問に、「時間があればいくらでも眠れます」とニコリと言う。私は「おや?」と思った。うつ病は早朝に目覚めてしまい眠れなくなるという特徴がある。そこで「何時に寝て何時に起きますか?」と尋ねると、「朝は弁当作りのため眠い目をこすって5時に起き、夜は夫の帰宅が遅く、就寝は深夜1時」と言う。Aさんの睡眠時間は1日4時間しかない。うつ病ではなく、慢性睡眠不足がだるさの原因だった。
しかしAさんには自覚はない。Aさんのような自覚がない慢性睡眠不足の主婦は実は大勢いる。
「慢性睡眠不足は肩こり、頭痛、繰り返す風邪ばかりか、不眠症やうつ病、高血圧や心臓病など、大病へ発展することがあるんですよ」と私が説明すると、驚いた表情でAさんは言った。「短い睡眠は家族のためなので仕方がないことなんです!」
■睡眠の役目って?
睡眠は、心身の機能を回復、向上させてくれる。だから寝ずに考えるより、よく寝てフル充電された脳で考えるほうが効率的だ。寝だめは効果がない。日中に眠気を感じないほどの睡眠時間を、毎夜とり続けることがいいのだ。
「眠くなったら眠るのが睡眠と思っていたけれど、自分で心と体を寝かせなきゃいけなかったのね」
Aさんの自覚が一番の治療になったようだ。家事に対して完璧主義だったAさんだが「家事が終わらなくても23時には就寝」を守って、体が軽くなり心も徐々に回復した。
ある日、息子が「寝るってそんなに大切なわけ?」と言いだし、ちょっとしたバトルになった。夫が間に入って説明してくれたこともあり、思いがけず、息子が寝る前のゲームの時間を控え、早く寝るようになった。
実はAさんの夫も、自覚のない慢性睡眠不足だった。仕事から帰宅すると、晩酌してテレビをつけたまま就寝。しかしAさんが元気になる様子を見て、一変。眠りを浅くする晩酌は極力控え、仕事と家庭の切り替えに10分間の短いランニングをするようにした結果、深く眠れるようになった。帰宅時に駅を降りて、ネクタイをタオルに替えたのだ。
慢性睡眠不足は、忙しい40代にとって「仕方がないこと」で済ませてしまうことがある。しかし忙しいからこそフル充電が必要だ。
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西澤宗子
総合診療医。大村病院健診センター長。千葉大学医学部附属病院総合診療部。3人の男の子の母。総合診療医とは「何科に行ったらいいかわからない」症状に対して、“科”にかかわらず全体的に診断する。
http://news.goo.ne.jp/article/president/life/president_12962.html