「背中や腰に激痛があって動けない日と、痛みがなく元気な日を繰り返す」「背骨や首が動かず、態度が横柄に見える」-。こんな症状のため、周囲の人から誤解を受けやすいのが「強直(きょうちょく)性脊椎炎(AS)」だ。診断まで時間がかかるのも特徴という。(日野稚子)
◆病名間違い9割
ASは、脊椎や骨盤にある仙腸関節など骨と靱帯(じんたい)の接合部で炎症が起こるリウマチ性疾患。原因は不明で、何らかの細菌感染が引き金となって免疫系に異常が起こると考えられている。患者は男性が女性の3~5倍を占め、30歳前の若年期に発症。患者の白血球型(HLA)は、HLA-B27の陽性の人が9割に達する。
このタイプが必ず発症するわけではないが、B27陽性の人の割合は欧米白人では人口の1割前後に対し、日本では0・3%、国内有病率(推計)も0・03%以下と低い。海外と比べ、患者数も少ないことからASに対する医師の認識不足は否めない。
患者会「日本AS友の会」が4月、会員患者を対象に行った調査(回答者147人)では、ASと診断を受けるまでに受診した病院は平均4・7施設。初発症状から診断まで罹患(りかん)歴19年以下の患者で平均9・4年、同20年以上では平均10・3年かかっていた。また、9割がAS診断前に、(1)腰痛症、ぎっくり腰(2)座骨神経症(3)椎間板ヘルニア(4)関節炎-など別の疾患診断を受けた。椎間板ヘルニアの手術を受けたり、リウマチとの診断で効果のない薬を服用したりした人もいた。
腰痛や背部痛があっても安静で悪化し、動くと楽になるのが普通の腰痛や背部痛と異なる。初発症状として肩や膝、足首などの関節炎も見られ、「後ろに反れない」「歩き姿がペンギンのようになる」のも特徴だ。
炎症が慢性化すると、脊椎や仙腸関節、股関節などで靱帯の骨化が始まり、固まって動かなくなる。こうした重症患者は10~20%という。根治療法はなく、消炎鎮痛剤での対症療法、運動療法などで可動領域を守り、骨化を遅らせることが勧められる。近年、生物学的製剤の一つ、TNFα阻害薬の適用疾患となり、若年者で機能障害が進行していない患者では約6割に効果が見られ、3分の1では寛解(かんかい)するとの結果もある。
◆靴下がはけない
重症患者の田中恵子さん(51)=仮名=は首と背中、股関節が固まり、上や下を向くことはできず、座れる椅子も限られる。高校時代から股関節痛、短大を卒業して就職後からは背部痛を経験した。
「学生時代は座骨神経痛と診断された。痛みがないときは友人と旅行もしたが、靴下は座ってはけなかった」。31歳でASと診断されるまで、整形外科や神経内科などで受診。ASと診断した医師からは「治療法がない」と言われた。「医師の対応や知識で患者の将来は大きく変わる。自分と共存する病を理解し、ようやく前を向いて生きてこられた」
友の会事務局長で、患者でもある整形外科医の井上久さんは「ASは中年以降、痛みは弱くなる。人生これからという若年期の激しい痛みを抑え、充実した生活を送るためにも早期治療は有効。患者は3万人と推定されるが、診断にたどり着きにくいのが実態」と指摘する。
順天堂大学医学部付属順天堂医院(東京都文京区)膠原(こうげん)病内科助教、多田久里守医師は「10代で股関節や足の付け根の痛みを訴え、成長痛と診断されたり、20、30代の男性が激痛で寝込むため、『怠け病』と言われた人もいる。『体が硬くなった』『動くと楽になる腰痛がある』などが続くなら疑ってほしい」と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20140704556.html