一生のうち2人に1人が経験すると言われる「顎関節症」。開口時の痛み・開けづらいなどの症状が。最近、上下の歯の接触癖など様々な要因が関係することがわかってきた。
1.顎関節症とは
顎関節症は、軽いものを含めると、一生のうちに2人に1人が経験するといわれるほど身近な病気です。口を開け閉めするときに重要な、咬筋[こうきん]・側頭筋などの筋肉に疲労が起こったり、顎関節内部の関節円板が変形したりすると症状が現れます。「口を開けるとあごの関節や筋肉が痛む(動作に伴って痛みが出る)」「口が途中までしか開かない(指2本分くらいしか開かなくなる)」「口を開け閉めするとカクカク(カクンカクン、ザラザラ)と音がする」といった症状のうち、1つ以上が当てはまる場合、顎関節症の疑いがあるとされます。音がするという症状のみの場合には、特に治療の必要はありません。
2.発症の要因と治療
これまで、顎関節症の要因は主にかみ合わせの悪さと考えられ、その調整が治療の中心となっていました。しかし最近では、かみ合わせ以外にも、ストレス、歯ぎしり、癖など、さまざまな要因が重なって起こると考えられるようになり、初期治療としてはかみ合わせの調整は推奨されないようになっています。治療は、要因のうち大きなものに合わせて行われますが、健康保険が適用されているのは、マウスピースを装着して正しいかみ合わせを作り筋肉の負担を減らす方法と、鎮痛薬による痛みの軽減です。このほか、ストレスに対してリラクゼーション法が指導されたり、緊張を緩和する薬が使われる場合もあります。
3.TCHは重要な要因
最近、顎関節症を起こす要因として注目されているのが、TCH(Tooth Contacting Habit)という、上下の歯を接触させている癖です。本来、上下の歯が接触するのは、咀嚼[そしゃく]、嚥下[えんげ]、会話を行うときに限られ、それ以外のときは、唇を閉じていても上下の歯は接触していないのが普通ですが、TCHがあると無意識のうちに歯を接触させているため、筋肉や関節に負担がかかり、顎関節症が起こりやすくなります。チェックをするには、「姿勢を正して正面を向き軽く目を閉じ、唇を軽く閉じ、上下の歯が接触しないように軽く離す」ということを行って、口のあたりに違和感があればTCHの可能性があります。また、TCHのある人は、舌や頬の内側に歯のあとがついています。
TCHのある顎関節症の患者さんに対し、この癖を矯正するため、臨床心理学で使われる行動療法による治療が行われ始めています。行動を繰り返すことによって無意識に脱力したり、歯を離すことができるようになり、個人差はありますが早ければ2~3週間で効果が感じられるようになってきます。現在は、この治療を受けられる医療機関は限られていますが、自分で行うことができるので、まずは試してみるとよいでしょう。
●TCHを矯正する行動療法
注意
口を動かさなくても痛んだり、痛みが悪化したりする場合は、顎関節症以外の病気のおそれもあるので早めに受診する
【 癖が筋肉疲労を起こすことを自覚する】
こめかみとあごの付け根に指を当てながら、上下の歯を軽く接触させるときの筋肉を動きを確認する
【 癖に気づくためにメモを活用する】
メモ用紙に「力を抜く」「リラックス」「歯を離す」などと書いて目につく場所に貼っておき、メモを見たら「肩に力を入れながら息を吸い、一気に吐くと同時に肩の力を抜いて落とす」という動作を繰り返す
【 上下の歯が触れた瞬間に離す】
歯が接触していることに気づいたら離す
4.痛みの対処法
鎮痛薬のほか、口を開けるなどのリハビリトレーニングを行います。トレーニングのポイントは、痛みを怖がらず、痛みを感じるところまで口を開けることです。繰り返すことで徐々に口が開くようになるとともに、関節周囲の血流も改善され、痛みが和らぎます。無理のない範囲で行ってみてください。
NHK「きょうの健康」2014年3月12日放送分
http://news.goo.ne.jp/article/kenkotoday/life/kenkotoday-20140312-h-001.html