Aさん(52)は会社で仕事中、立ち上がろうとした途端に体がふらついた。若い頃から貧血気味でめまいを感じることも多かったAさんだが、いつものめまいと少し違うように思った。右側の手足がしびれるのも気になった。しかし、しばらくイスに座っているとしびれは消えたので、そのまま仕事を続けた。
Bさん(50)は朝、激しいめまいで起き上がれなかった。遊園地のコーヒーカップに乗っているような、ぐるぐる回っている感じがして、吐き気もある。自分はどうなってしまうのだろうという不安から、妻に急いで救急車を呼んでもらった。 疲れた時や急に立ち上がった時など、クラッとした経験はだれでもあるだろう。頭がふらつく「めまい」には、放っておくと命の危険があるものと、放っておいていいものとがある。年末が近づくにつれ忙しくなるが、そんな時でもすぐに対処しなくてはならないめまいは何か? 米山医院・米山公啓院長(医学博士)に聞いた。
■激しくても命に関わるとは限らない
冒頭のAさんとBさんのケースだが、実はAさんは翌日、脳梗塞を起こして病院に救急搬送された。幸いなことに命は助かったが、右半身にマヒの異常が残ってしまった。
「めまいには大きく分けて、脳に原因がある場合と、耳の三半規管に原因がある場合があります。Aさんは、めまいに加えてしびれも感じている。脳が原因のめまいの代表的なものは脳卒中ですが、これはめまいと同時に口元や手足のしびれ、ろれつが回らない、手足に力が入らないといった症状があります」
脳に原因があるめまいにはほかに、動脈硬化で脳に血液が十分に送られず、体がふらついたり倒れたりする椎骨脳底動脈循環不全症、脳神経に腫瘍ができる聴神経腫瘍などだ。
■ポイントは「別の症状」
また、脳卒中のひとつ、脳梗塞には、発作が10分前後で治まってしまうものもある。
「一過性脳虚血発作です。頚動脈の辺りの血栓が飛んで脳内の細い血管が詰まり症状が生じるのですが、血栓はすぐに流れ、症状も消えます。放っておくと数カ月先に脳梗塞を起こす可能性が高くなります」
めまいそのものはそれほどひどくない、あるいは消えてしまったが、同時にしびれなど別の症状があったら、何をおいても病院へ。
一方、病院へ救急搬送された冒頭のBさんだが、診断は「良性発作性頭位めまい症」だった。
「三半規管に何らかの問題が生じ、激しい回転性のめまいに襲われます。上を向いたり振り返ったときに目の前がグルグル回っているように感じ、人によっては寝込んでしまうこともあります。めまいの程度は非常にきついです」
同じく激しいめまいでは、三半規管の神経がむくんで起こるメニエール病もある。
「メニエール病は一般的に難聴を伴うといわれていますが、そうでないケースも多い。めまいと同時に強烈な吐き気に襲われることもあります」
三半規管が原因のめまいは命に別状があるものではないが、めまいが消えるまで時間がかかるケースも少なくない。良性発作性頭位めまい症は、完治まで半年から1年。メニエール病は自然と治る場合と、治療しても長く引きずる場合とに分かれる。耳鼻咽喉科が専門になる。
めまいを甘く見てはいけない。
http://gendai.net/articles/view/life/146545