たいていの人は、ジャンクフードが健康によくないことを知っています。栄養のバランスが悪いと、心臓疾患や高血圧のほか、さまざまな健康障害につながることも知っています。また、ジャンクフードを食べることでうつ病の危険性が増加したという研究結果をご存知の方もいるでしょう。でも、これだけ悪いものだとわかっていながら、どうしてやめられないのでしょうか?
そのワケを説明していきましょう。科学に裏づけられたその答えには、きっと驚かされるはずです。
ジャンクフードがやめられないワケ
食品科学者のSteven Witherly氏は、20年ほど前から、ほかの食べ物よりも病みつきになりやすい(そして美味しいと感じる)食べ物がある理由について研究を重ねてきました。これから説明する科学的な説明の多くは、『Why Humans Like Junk Food(人はなぜジャンクフードを好むのか)』と題したWitherly氏の素晴らしい論文から引用したものです。
Witherly氏によれば、私たちが美味しい食べ物を口にした時、その体験を快いものにする要素が2つあるそうです。
1つ目の要素は、物を食べる時の感覚です。これには、(塩辛さ、甘さ、うまみなどの)味や香り、口にした時の感触などが含まれます。中でも、口にした時の感触は「口腔感覚」と呼ばれ、特に重要な役割を果たす場合があります。食品会社はポテトチップスについて、もっとも満足度の高い歯ごたえを見つけるために何億ドルもの巨費を費やします。食品会社お抱えの科学者たちは、ソーダ水の理想的なシュワシュワ感について研究しています。こういった要素がすべて組み合わさって、脳が特定の食べ物や飲み物と関連付けるような感覚を作り上げているのです。
2つ目の要素は、食品に含まれるタンパク質や脂肪、炭水化物の割合です。ジャンクフードをつくる食品メーカー各社は、脳を刺激し、何度でも繰り返し食べたくなるような、塩、砂糖、脂肪の完璧な組み合わせを追求しています。
では、メーカー各社がどのように研究しているのかを見てみましょう。
科学による「食物渇望」のつくり方
病みつきになりやすい食べ物を作り出すために科学者や食品メーカーが使う手法にも、いろいろあります。
◆ダイナミック・コントラスト
ダイナミック・コントラストとは、1つの食べ物に異なる感覚を組み合わせて持たせることです。Witherly氏の言葉を借りれば、ダイナミック・コントラストを備えた食べ物は、「外側にカリッとした歯触りの部分があり、その下に、味を感じさせる成分がたっぷり含まれた、柔らかい、あるいはクリーミーな物が入っています。この規則は、例えばクリームブリュレのキャラメリーゼされた表面や、ピザ、そして「オレオ」のクッキーなど、人が好むさまざまな食べ物に当てはまります。脳は、こういう物をかじると、珍しくて刺激的だと感じるのです」
◆唾液分泌反応
唾液の分泌は、物を食べる体験の一部です。唾液を多く分泌させる食べ物ほど、口の中に広がって味蕾を刺激します。例えば、バター、チョコレート、サラダドレッシング、アイスクリーム、マヨネーズといった乳化食品は、唾液分泌反応を促し、味蕾を心地よく刺激してくれます。多くの人がソースやシロップのかかった食べ物を美味しく感じる理由の1つがこれなのです。唾液の分泌を促す食べ物は脳を喜ばせ、こうした作用を起こさない食べ物よりも美味しく感じられるわけです。
◆口の中で「とろける」食べ物と、「消えるカロリー密度」
素早く溶ける、もしくは「口の中でとろける」食べ物は、「実際よりも食べている量が少ない」と脳に伝えます。言い換えると、こうした食べ物は、相当のカロリーを摂ったとしても、脳に対して「まだ満腹ではない」と伝えるのです。結果として、あなたは食べ過ぎてしまうわけです。
ベストセラー『Salt Sugar Fat』の著者Michael Moss氏は、Witherly氏と対談したときについて次のように紹介しています。カロリー密度が消えてしまうことをわかりやすく説明する文章です。
私は彼(Witherly氏)のところに、美味しそうな各種のチップスを目一杯詰め込んだショッピングバックを2袋持って行きました。彼は、チーズ味スナックの「チートス」に目を向けました。そして、「純粋な喜びという観点からして、これは地上でもっとも見事に作り上げられた食べ物です」と言ったのです。
Witherly氏は、脳がもっと欲しがるように仕向けるチートスの特性を10個以上もスラスラと言ってのけました。ですが、同氏が特に強調したのは、口の中で溶けるチートスの不思議な特性でした。「それは、消えるカロリー密度と呼ばれています」と、Witherly氏は説明しました。「もし何かがさっと溶けると、あなたの脳はその中にカロリーが含まれていないと錯覚してしまい…あなたは、いつまでも食べ続けられるのです」
◆感覚特有の反応
脳は変化を好みます。食べ物に関して言うと、同じ味を繰り返し体験していると、その食べ物から得られる喜びが徐々に失われていきます。つまり、感覚器の感度は時間経過と共に鈍ってくるのです。この現象は、わずか1分で起きることもあります。
ですがジャンクフードは、この感覚特有の反応を防ぐようにできています。ジャンクフードは、(脳が食べ飽きないよう)興味を引き続けるに十分な味付けがされていますが、感覚反応が鈍くなるほど刺激的ではないのです。これが、ポテトチップスを1袋食べてしまっても、まだ食べられると感じるカラクリです。脳にとっては、トウモロコシ粉のチップス「ドリトス」を食べる時の噛み砕く音と感覚が、常に新しく興味深いものなのです。
◆カロリー密度
ジャンクフードは、「栄養は得られているけれどもお腹は膨れていない」と脳を言いくるめるように作られています。口や胃の受容体は、食べ物に含まれるタンパク質、脂肪、炭水化物の割合や、その食べ物で、どれだけ満腹感を得られるかを脳に伝えます。ジャンクフードは、脳が「よし、これでエネルギーがいくらか摂れる」と判断できるだけのカロリーを与えてくれますが、そのカロリーは、あなたが「もう十分。満腹だ」と思えるほど多くありません。その結果、あなたはまずそ食べ物が無性に欲しくなりますが、満腹感を得るまでにはかなりの時間がかかることになります。
◆過去の食事体験の記憶
ジャンクフードは、この記憶を通じてあなたの体までも操ってしまいます。何か美味しいもの(例えばポテトチップス1袋)を食べた時、脳はその感覚を記録します。次にその食べ物を見た時、匂いを嗅いだ時、さらにはその名前を目にしただけでも、食べた時の記憶と反応が脳裏によみがり始めます。こうした記憶は、好物の食べ物を考えると唾液が分泌するような身体的反応を実際に引き起こし、「よだれの出そうな」渇望をもたらします。
さて、こうしたことを知ると、何よりも重要な疑問が頭をもたげます。食品会社は、依存性と興奮を引き起こす食べ物を作ろうと何億ドルも費やしているのです。私たちはこのことに対して何ができるでしょう? ジャンクフード業界を支える資金、科学、そして広告に対抗できる手段は果たしてあるのでしょうか?
ジャンクフードへの依存を断ち切るには
幸いなことに、Witherly氏の研究報告から、ジャンクフードを食べる量が少なければ、依存度も低くなることがわかっています。筆者の個人的経験も、この結果を裏付けるものでした。徐々に健康的な食事を摂るようにしてからは、ピザやキャンディー、そしてアイスクリームがだんだん欲しくなくなってきたのです。この移行期間を「遺伝子の再プログラミング」と呼ぶ人もいます。何と呼ぼうが、言っていることは同じです。つまり、より健康的な食事を摂る方法さえ見つけることができれば、ジャンクフードが食べたくて我慢できないという気持ちは次第に弱まってくるのです。
筆者は、問題をすべて(もしくは、一部だけでも)解決できる答えがあるなどとは言いませんが、依存からの脱却に役立つと思われる3つの妙案があります。
・大型スーパーでは「外周作戦」
最善策は、加工食品やパッケージ入りの食べ物を買わないことです。手元になければ食べられないのですから。さらに、そういう食べ物のことを考えなければ、誘惑されることもありません。ジャンクフードのことを一切考えないようにするのは確かに不可能ですが、食べたくてたまらない気持ちを抑える方法ならあります。
まずは、筆者の編み出した「外周」作戦を使います。お店で、加工食品やパッケージ入りの食べ物を買わないようにする方法です。大型スーパーなどの店舗内では、外周部分だけで食品を買うようにすれば、おのずと(フルーツ、野菜、肉、卵などの)自然食品を買うことになります。外周部分に健康的な食品だけが並んでいるというわけではありませんが、健康的でない食品の多くを避けることはできます。
また2つ目の方法として、お店で食品を購入する際には「5つの原材料ルール」に従うという手もあります。5つ以上の原材料が含まれている食品は買わない、という決まりです。なぜなら、そういう食品には、もっと食べたくなるような仕掛けが施されている可能性が高いからです。そうした製品を避けて、もっと自然な食品にこだわるようにしましょう。
・多様な食品を食べる
前述したように、脳は目新しいものを欲しがります。オレオの持つ歯ごたえ感とクリーミー感のコントラストを再現するのはまず無理でしょうが、食生活に変化を持たせて目先を変えていくことは可能です。
例えば、歯ごたえのある人参に、クリーミーなフムス(ヒヨコ豆のディップ)を付ければ、新鮮な食感が得られます。また、料理に新しいスパイスや風味を加える方法が見つかれば、健康的な食事をもっと望ましい体験にすることができるでしょう。
教訓:健康的な食生活が味気ないものである必要はありません。種類の異なる感覚を得られるように食べ物を組み合わせることで、同じ食べ物を繰り返し食べ続けるよりもずっと楽なことがわかってくるはずです(でもいつかは、飽きと上手に付き合う必要が出てくるかもしれませんね)。
・ストレスにもっとうまく対処する方法を見つける
ストレスに対処する手段として多くの人が食に走るのには理由があります。ストレスは、脳のある領域から化学物質(具体的に言うと、モルヒネ様物質と神経ペプチドY)を分泌させます。これらの化学物質は、脂肪や砂糖に向かう食物渇望と似たメカニズムを引き起こします。言い換えると、ストレスを受けると、脳は砂糖や脂肪に対するどうしようもない欲求を感じ、ジャンクフードに連れ戻されてしまうのです。
私たちは毎日の生活の中で、誰もがストレスに満ちた状況に置かれています。ストレスとうまく付き合う別の方法を学ぶことで、ジャンクフードの中毒的な誘惑に打ち勝つことができます。そのような方法としては、シンプルな呼吸法(動画)や、解説付きの短時間の瞑想(動画)などがあります。あるいは、もっと体を使うエクササイズや芸術に取り組むのも良いでしょう。
What Happens to Your Brain When You Eat Junk Food (And Why We Crave It)| James Clear
James Clear(原文/訳:風見隆、吉武稔夫/ガリレオ)
http://news.goo.ne.jp/article/lifehacker/bizskills/healthcare/lifehacker_36059.html