PRESIDENT 2013年1月14日号 掲載
■就活サポートこそ父親の出番
最近の就活はわかりにくい。何百という企業に書類を送り、何百という企業から不採用通知を受け取るとはいうが、その連絡はほとんどがメールである。ネクタイを締めて出かけることもなく、パソコンの前に座ったままエントリーシートを送り、合間にオンラインゲームをやったりしていると、親の目には遊んでいるのと変わらないように見える。
しかし就職が厳しいのは、紛れもない事実で、大卒者の就職率は6割強に過ぎず、就職の失敗が原因の自殺は年にかなりの数にのぼると聞く。こうした厳しさがわかっているだけに諦めが先に立ち、就活に身が入らない学生も多いのではないだろうか。
しかしここで親がすべきは、しっかりしろと活を入れることではなく、まずは子供の話を聞いてやることである。周囲には内定をもらった友人もいるというのに、自分はなかなかうまくいかず、社会から取り残される気分というのは、やるせないものだ。私自身もオイルショック後の不景気のさなかに学生生活を送ったが、就職難という現実に、サラリーマンになることへの反抗心も加わって、道端のホームレスを見るたび、「自分もあちら側になるかな」などと思ったものだ。こうした若者の不安な心理は、昔も今も変わらないだろう。
だから親は、巣立つ前の子供の気持ちをじっくり聞いてやる最後のチャンスと思って、正面から向き合ってみてほしい。そうすれば子供の悩みの多くが、「情報の偏り」から生じていることがわかり、解決の糸口が見つかるのではないかと思う。
典型的なのが大企業、しかも有名企業にしか目を向けていないケースである。自動車関連の仕事に就きたいと、トヨタ、ホンダ、日産あたりだけを狙い、「不採用になった」と落ち込んでいたりする。同じ自動車産業でも部品や機器にまで範囲を広げ、地方の企業も調べれば、対象となる会社は一気に増えるに違いない。
また中小企業の中に、他社の追随を許さない独自技術や、海外進出の成功で好調な企業が多数存在することは、親のほうがよく知っている。大企業ではない、そうした中小の優良企業の存在も子供は見落としがちなので、親が教えてやるとよい。
親にできるのはこのような社会の現実を子供に教え、タコツボにはまりこんだように凝り固まった子供の考え方を柔らかく解きほぐしてやることだ。その際にはぜひ父親に頑張ってほしい。これまでの就業経験と会社の現実を知る先輩として、きっと役に立つ助言ができるだろう。それが何よりの励ましになる。逆にやってはいけないのは、「そんな体たらくでどうする」とマイナス思考を助長するような言葉をかけること。のんびりしているようで、1番悩んでいるのは当の本人なのだから。
そしてもう1つ。就活がネット経由のバーチャルなやりとりに移行しているのは世の趨勢かもしれないが、「生身の企業人に会う」ことを勧めてみてほしい。サークルのOBを訪ねてもいいし、親が誰かを紹介してもいい。もちろんそれが直接就職に結びつくとは限らないが、パソコンの前でじっとしているだけではわからなかった、働くことのリアリティを感じ取ることができるはずだ。
ボランティアなどの社会活動に子供を参加させるのもいい。普段会う友人とは異なる属性の人たちに囲まれれば、自然と社会人らしい立ち居振る舞いや言葉づかいが身につくからだ。私は銀行員時代に採用に関わったが、社会活動を経験した学生は他者との接し方がうまく、面接でも好印象であったと記憶している。
仕事は人と人とが出会い、一緒に目標を成し遂げることで成り立つもの。就活もコピペの履歴書を送ることだけに専念するのではなく、生身の人や現実の世界に向き合いながら取り組んでほしいと思う。
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作家 江上 剛
1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行、2003年に退社。02年から作家として活躍。近著に『帝都を復興せよ』がある。
http://news.goo.ne.jp/article/president/life/education/president_10620.html