8日午後4時56分に流された緊急地震速報で、気象庁が示したマグニチュード(M)は7・8、最大震度7。実際はM2・3だったが、新幹線が停止するなどしたため社会的反響は大きく、気象庁は謝罪することになった。こうした状況について、防災研究者は「気象庁の推定値の誤りは常に起こりうる。問題にすべきは速報を受け取った側がどう行動をしたかということ」と、有事に備える国民の姿勢の重要性を指摘する。
■過去最大の「誤報」
緊急地震速報は、地震を検知し震度5弱以上の大きさと推定した場合、震度4以上の揺れが想定される地域に流される。
今回結果として「過去最大級の誤報」となった理由について、気象庁は「和歌山県北部で実際に発生したM2・3の地震と同時に、三重県尾鷲市沖に設置された海底地震観測網でも揺れを感知した」とした。
この尾鷲沖の「揺れ」はその後、「ノイズ」(雑音)と判明。通常、雷など地震以外の震動によるノイズは除去されるが、今回はノイズ発生後いったんは途切れ、再びノイズが発生したため、地震の「揺れ」と判断したという。
気象庁では、より正確な速報値の提供を目指し、平成21年から、地上の地震観測網に加え、海底観測網のデータも加えてきたが、それが裏目にでた。
■“地球の動き”は人の理解を超える
「今回の速報は直下型地震ではなく、むしろ、東南海地震が起きたのでは、と疑うケース」と解説するのは、大木聖子(さとこ)・慶応大准教授(地震学)だ。
今回は、三重県尾鷲市の沖合の海底で揺れが感知された。ここは、東南海地震の震源域だと推測されている。昭和19年の東南海地震も震源は尾鷲沖とされる。東南海地震が起きれば、過去の地震の歴史からみると、東海、南海地震と連動することになる。
しかも今回のように震度7という推定値が出れば、それは、国が想定している東日本大震災級(M9クラス)の「南海トラフ巨大地震」に匹敵する規模と考えてもおかしくない。
緊急地震速報を利用し都内の学校などで防災教育を進める大木准教授は「地球の動きを人間が理解できる数値に置き換えるのは容易なことではない。気象庁の推定値で判断するのではなく、速報の警報音を聞いたら、即座に防御姿勢をとるのが正しい利用法だ」と強調する。
■警報出たら即座に避難行動
災害情報と避難行動の関係を研究する群馬大の片田敏孝教授は「東日本大震災以降、すべての災害情報の常識が覆され、今後どのような情報を国民に提供すべきか暗中模索の状況にある」と指摘する。
地震の規模がそれまでの想定をはるかに超えたため、地震速報や津波警報も直後には地震の実像を全く伝えきれなかった。
片田教授のこれまでの調査によると、岩手県では、津波警報は当初3メートルと出されたため、避難の遅れを招いた。津波による浸水予測域を示す「ハザードマップ」によって「浸水域外」と示されていた居住エリアの住民にも多数の死者をだした。
片田教授は「公的機関の災害情報はひとつのシナリオにすぎず、実態とかけ離れることが多い。こうした性質の情報に頼り切り、右往左往していたら命を落とすことになる」と指摘。そのうえで、利用者である国民に対し、「揺れや津波の可能性が知らされたら、数値の大小で判断せず、すぐに避難行動をとるべきだ。日常の活動から避難行動への切り替えがすぐにできるよう、ふだんから地震から身を守る方法や避難方法の確認をするべきだ」と求めている。
■情報の価値は受ける側の準備次第
「緊急地震速報騒ぎ」があった8月8日、京都大防災研究所の矢守克也教授は電車の中にいたといい、そのときの体験から、緊急地震速報との“つきあい方”を提言する。
私は私は電車内にいた。乗客の携帯電話が一斉に鳴りだした。おかげで、今時珍しく携帯電話を持ち歩く習慣のない私も、何が起こったかをすぐに知ることができた。
ある知人は新幹線に乗車中だった。携帯電話が一斉に異常を報せるのと前後して、急ブレーキがかかり新幹線は停止した。
そのとき、乗客のビジネスマンたちがとった行動は電話をかけることだった。電話がいったん不通になると再度接続するのが困難というのが理由のようだ。しかし、まさにこの行為によって電話の輻輳(ふくそう)・不通は生じる。こうした大人たちの反応に対して、考えさせられる事例がある。
滋賀県日野町のある幼稚園での事例だ。私の手元に、この幼稚園で緊急地震速報を利用して行われた防災訓練の映像がある。
警報音と同時に、園児たちは、部屋の壁に作りつけられた木製ロッカーに急ぐ。このロッカーは本棚を縦にしたような形状で、子供なら身体がすっぽり入ってしまう。棚や壁の強度は専門家がチェック済みなのだという。
棚の一つ一つに小さな園児たちが一人ずつ収まっている様は、ほほえましいが、当の園児たちはあくまでも真剣だ。さらに、後日談がある。園に隣接する小学校が緊急地震速報を使って訓練をしたとき、その音が園まで聞こえてきた。そのとき、園児たちは、先生に言われなくても自分たちでロッカーの棚に入ったり、園庭で身を守る姿勢をとったりした。
誤報は誤報として、再発防止へ向けた努力を関係機関にお願いしたい。一方、情報を生かすも殺すも受けとる側の心がけと準備次第と悟り、利用者も努力を続ける必要があるだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130829-00000510-san-soci