東京電力が、2007年の中越沖地震で被災した柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性検証の一環として、同地震を超える揺れを想定し、原子炉の非常停止機能の限界を調べる実験を行っている。 背景と意義を探った。(大藪剛史、出川智史)
■制御棒の挿入性
実験は大手原子炉メーカー・東芝と共同で実施。 神奈川県内の東芝の施設で、1月21日に始まった。
起震台に原子炉を模した装置を載せて、中越沖地震を超える強い揺れを起こし、緊急時に原子炉に挿入され運転を止める、※「制御棒」の作動状況を確認する。 年度内にも結果をまとめ、柏崎刈羽原発の安全性を検証する専門家機関、県技術委員会に報告する。
原子炉内には、核燃料を棒状に束ねた「燃料集合体」が1~5号機で764体、6、7号機で872体並ぶ。 制御棒は十字形をしていて、核燃料と核燃料の間に入り込み、核分裂反応を抑える。
地震の大きな揺れの中でも制御棒が問題なく挿入されることは、コンピューター解析や、過去に研究機関や東電が行った類似の実験で、既に確認されている。
■専門家が要請
だが、県技術委の専門家からは、「解析で予測しきれない部分がある」との懸念が示されていた。 巨大地震時には、燃料集合体にたわみが起き、これと制御棒がこすれ合って、スムーズに挿入されない可能性があるという。
しかも、たわみ方は一様でなく、相当のバラつきが生じると見られている。 そのバラつきがどのように生じるかを示すデータは、これまで無かった。
また、制御棒と集合体がこすれた場合の摩擦について、解析では計算に入れていなかった。
この問題が昨年春、1号機の運転再開を巡る県技術委の議論の中で取りざたされた。1号機は中越沖地震で伝わった揺れが、全7基中で最も大きかった号機。 各号機とも、設計時の想定を超える揺れに見舞われており、見通しの甘さが指摘されていた。
県技術委の一部委員は「設計上想定している揺れに対して、どのくらいまで余裕があるのか、不確かだ」と指摘。 東電で検討し、実験でこの疑問に答えることにした。実施に当たっては、たわみ方のバラつき具合が調べられるよう、燃料集合体一つ一つに測定器を設置する。
■地元は好意的
関係者の間には、実施の必要性に疑問を示す向きもあるが、東電は「足りなかったデータを補うことで、地域の不安を払拭したい」としており、地元の受け止め方は、おおむね好意的だ。
柏崎商工会議所の西川正男会頭は「あらゆる状況を想定した実験は必要。 地元の安心感を強固にする」と歓迎。会田洋・柏崎市長も「原発に対する信頼性をより高める」としている。
※制御棒
原子炉に出し入れし、出力を調整する装置。 原子炉では、ウランの核分裂による熱で水が沸騰し、タービンを回す蒸気が作られるが、制御棒は核分裂を起こす中性子を吸収する金属でできており、炉に挿入すると核分裂が抑えられて出力が下がり、引き抜くと核分裂が進んで出力が上がる。 大地震など緊急時には制御棒が一斉挿入され、原子炉を停止させる。
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