地元特産の枝豆を原料にしたあんを、「もち、もちっ」とした食感の白い生地で包み込んだ弥彦村の新名物「白パンダ焼き」。 昨年11月、全国商工会連合会主催の「ニッポン全国物産展」のおやつ部門でグランプリを獲得してから、週末は1、2時間待ちになるヒット商品に躍り出た。 全国各地でB級グルメを起爆剤にした地域おこしが盛んだが、素朴でも深い味わいに、地域再生の新たなヒントが詰まっている。
JR弥彦駅から弥彦神社に向かう途中、細い道路の脇に白パンダ焼きを売る「分水堂菓子舗」がある。 午前9時に開店。 閉店の午後4時を待たずして売り切れる。 店内には6畳ほどのスペースがあるが、ピーク時の行列はそこに収まりきらず、外で冷たくなった手をこすりながら順番を待つ人もいる。 ひとつ130円の値段も魅力だ。
店を切り盛りするのは伊藤ミヨ子さん(72)。 20年以上前に「自分がぽっちゃりしていたから」と始めたパンダ焼きは、地元の人々や弥彦神社の参拝客の間では知られた存在だった。
一昨年、村商工会が特産の枝豆・弥彦娘の新たな調理法はないか、と持ちかけたことが、ヒットにつながった。
伊藤さんは、商工会に提供されたペースト状の枝豆をあんに仕上げる際、甘みを引き立たせる塩の加減を工夫した。 近所の板前さんに意見を求めて、現在の味に。 黄緑色のあんとの色彩バランスを考えて、生地に米粉などを混ぜて白色にした。 これで、もっちりした食感も加わった。
すぐに評判を呼んだ。 商工会の誘いで、昨年11月27~29日に東京・池袋のサンシャインシティで開かれた「ニッポン全国物産展」に出品。 47都道府県のご当地自慢のおやつの中から、来場者の人気投票で1位を勝ち取った。 新聞や雑誌で取り上げられ、一気に新潟を代表する「B級グルメ」に駆け上がった。
■地域再生への「つなぎ役」
白パンダ焼きの人気ぶりを「町おこしの成功例」と評価するのは「B級グルメが地方を救う」の著書がある新潟大法学部の田村秀教授(地方自治)だ。
近隣の県央地区では三条市のカレーラーメンも有名。 「食べ歩きをしていれば、弥彦温泉や弥彦神社に加えて、岩室温泉(新潟市西蒲区)にも泊まろうか、と行動範囲が広がり、滞在期間が延びる。 人の出入りがあれば、地域も元気になっていく」。 B級グルメを「観光の目玉である4番打者への重要なつなぎ役」と位置付ける。
田村教授によると、全国のイベントで安定した人気を誇るのは、静岡県の富士宮やきそばなど、昔から地元で親しまれてきたものだという。 「残り続けるのは、愛され続けるということ」と話す。
ただ、伊藤さんは急に評判が高まったことに困惑気味だ。 「行列ができると地元の子どもたちが店に寄ってくれなくて」とこぼす。
地元のパート従業員渡辺奈津美さん(36)は1月中旬、久々に店に立ち寄った。 帰り際に「素朴な味で、また来たくなる。 お母さんの人柄も魅力。 人気が出ても何も変わらないからいいんです」と笑顔を見せた。(有田憲一)
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