本の表紙を見ていただこう。これ、「山小屋の丸い窓から見えるアルプスの風景」だという。どこかにハイジがひそんでいる、かもしれない。
「20年くらい前になるでしょうか。私が留学生として暮らしていたドイツのハイデルベルクという街の冬は、昼の日照時間がとても短くて、寒くて暗い毎日でした。異国で一人という精神的なストレスもあって、朝起きてカーテンをあけるときの絶望感が日に日に深刻になってきました。私って、アルプスへいく前のハイジみたい」とふと思ったのが、アニメ『アルプスの少女ハイジ』の存在を身近に感じた瞬間だったという。
原作はスイス人の女流作家ヨハンナ・シュピリが130年以上前にドイツ語で書いた児童文学『ハイジ』だが、「アニメの印象的な場面をピックアップしてみたら、原作にはないものが多くて驚きました。元気のもとになるような場面が多かったのは、圧倒的にアニメのほうでした」という。「自分らしく前向きに生きようとするハイジの生き方をヒントに、心理学、脳神経学、免疫学の視点から、読者が元気になる方法をわかりやすく解説していく」本書には、アニメの中に見られるハイジの「元気になって幸せを見つけるための」さまざまな言葉や行動がいくつも例に挙げられている。
人が心身ともに元気をなくしたり、取り戻したりするのにはプロセスがあって、「その人が置かれている心の状態が脳内ホルモンに影響を与え、それが免疫系にも作用して、その結果もたらされた体調が、まわりまわって心の状態に影響を与える」のだという。複雑繊細な心と体の不思議を、だれの中にもひそんでいる「ハイジ」を呼び覚ますことで解明しようとする試みは画期的で、分かりやすい。「アルプスの少女」ならぬ「都会の心理カウンセラー」の思いがこもる。(飛鳥新社・1500円) (宝田茂樹)
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130526549.html