小売り大手のセブン&アイ・ホールディングス(東京都千代田区)が先月、トランス脂肪酸を含んだ商品の「全廃」を目指す方針を明らかにしたことが波紋を呼んでいる。トランス脂肪酸は大量に摂取すると心臓疾患のリスクを高めるとされ、消費者庁は表示の義務化を検討している。ただ、日本人の摂取量は少なく、健康への影響も欧米に比べれば小さいと考えられている。専門家からは「トランス脂肪酸だけを目の敵にするのは消費者をミスリードすることになりかねない」と危惧する声も上がっている。(平沢裕子)
◆健康増進に期待
トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種で、バターやマーガリン、揚げ物、菓子パン、カップ麺、牛肉、乳製品、マヨネーズ、カレールウなどさまざまな食品・調味料に含まれる。小売店としてこれらの食品を全廃するのは不可能とも思えるが、セブン&アイ広報センターは「方向性として全廃を目指したいということ。今はグループ全体でオリジナル商品や弁当などに含まれるトランス脂肪酸の低減化を進めている」という。
同社だけでなく、大手食品メーカーや加工油脂メーカーでは10年以上前からトランス脂肪酸の削減に取り組んできた。
ハウス食品(同)では平成7年からカレールウやスナック菓子で低減化を進め、「プライムバーモントカレールウ」では1食当たり0・01グラムまで減らしている。品質保証部企画推進課の山本竜太課長は「もうこれ以上の削減は難しい」と打ち明ける。
消費者庁の栄養成分表示検討会委員を務める日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会食生活特別委員会副委員長の蒲生(がもう)恵美さんは「食品業界における小売業の影響力は非常に大きい。健康増進への小売業の取り組みに期待する」としながらも、「トランス脂肪酸だけを悪者にするのは『これさえ取らなければ健康に良い』という誤解を消費者に与えるので問題だ」と指摘する。
◆むしろ飽和脂肪酸
そもそもトランス脂肪酸が問題なのは、取り過ぎた場合に心疾患のリスクを高めることが科学的に分かっているためだ。
WHO(世界保健機関)は1日当たりの摂取量を総エネルギーの1%未満にするよう勧告しているが、日本人の摂取量は1日平均0・7グラム(総エネルギーの約0・3%)で米国人の約8分の1。食用加工油脂の生産量からの推計でも、1日平均1・3グラム(同約0・6%)にすぎず、現状では取り過ぎが問題になっているわけではない。
一方、心疾患のリスクを高めるということでは飽和脂肪酸の過剰摂取も同様で、日本人にとってはむしろ飽和脂肪酸の取り過ぎが問題視されている。
蒲生さんは「脂質の取り過ぎに注目するのはよいが、総脂質で考えないと意味がない。トランス脂肪酸を減らして飽和脂肪酸が増えるのでは問題だ。健康のためには栄養バランスの良い食事と適度な運動が大切。生活に身近なコンビニエンスストアから健康増進のための情報が広まってほしい」と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20110117086.html