日本スペイン交流400周年を迎え、今年から来年にかけて「日本におけるスペイン年」が開催される。パエリアやガスパチョなどスペイン料理は日本でも親しまれるようになった。では、お菓子は? 全国的にも珍しいスペイン菓子専門店「サン・オノフレ」(長崎県時津町)のオーナーパティシエ、山口正見さん(45)にスペインの伝統菓子の魅力を聞いた。(榊聡美)
◆カステラのルーツ
「スペインのお菓子は料理と同じで、素材を生かしたものが多い。フランス菓子のような華やかさはなく、地味で素朴。材料の配合や作り方もシンプルそのものです」と山口さんは説明する。
日本でおなじみのお菓子にもスペインの伝統菓子を起源とするものがある。「カステラ」だ。
後のスペイン王国の中核となるカスティーリャ王国が「カステラ」の語源といわれる。今日でも、スペインの人々に愛されている「ビスコッチョ」がルーツとされる。ビスコッチョは「2度焼き」の意味とか。
「(16世紀に)ポルトガル人によって日本に伝えられた当時は、小麦粉と砂糖と卵で作られた硬いお菓子だった。だんだんと軟らかくなり、水あめを入れるようになって、今日のカステラへ変化したのです」
◆アーモンドの女王
スペインのお菓子で欠かせない素材はアーモンドだという。特に「アーモンドの女王」と呼ばれるマルコナ種は油脂分が多く、コクがある深い味わいで、世界的な人気を誇る。そのおいしさを知るには、アーモンドタルト「タルタ・デ・サンティアゴ」がおすすめだ。北部のガリシア地方にあるキリスト教の三大巡礼地の一つ、サンティアゴ・デ・コンポステーラが発祥で「巡礼のお菓子」と呼ばれる。
口の中でホロホロと崩れるクッキーのような焼き菓子「ポルボロン」は最近、日本の菓子店でも見かけるようになった。「独特の食感は、生地を練る前に小麦粉をオーブンでキツネ色になるまで焼くことで生まれる。セビリアから全土に広まり、クリスマスに食べる習慣があります」
日本の家庭でも手軽に作れる伝統菓子を山口さんに教えてもらった。「トリハス」は、「スペイン版フレンチトースト」のようなマドリードのお菓子。焼かずに衣を付けて油で揚げるため、外側がサクッ、中はホワホワの食感が楽しめる。
◆豊かな地域性
山口さんは、バルセロナ五輪が行われた1992(平成4)年から約3年間、マドリードの名店で修業を重ねた。
ベテラン職人の豪快な仕事ぶりは忘れられないという。お菓子作りの基本は材料の緻密な計量。ところが、「目分量で粉用スコップで何杯、塩は手でひとつかみ、という具合。それでいて仕上げはきれいだし、つじつまが合っている。体にたたき込んだ職人技です。目標にしてはいけないと思いましたが(笑)」。
スペインはカタルーニャ地方やバスク地方など、それぞれ独自の言語や文化を守り続ける。豊かな地域性こそ、スペインのお菓子の魅力と山口さんは言う。
「各地方の人々の生活や歴史、習慣を背景に長年伝えられてきたお菓子は、やはり存在感があります」
今も年に1回、スペインの地方を巡り、伝統菓子の探求を続ける。一つ一つ、その味を日本に伝えるのがライフワークだと話している。
【トリハス】《材料・2~3人分》
▽フランスパン(2~3日おいて硬くなったもの)…小1本▽牛乳…2カップ▽グラニュー糖…60グラム▽シナモン(パウダー)…少量▽小麦粉、溶き卵、揚げ油…各適量
〔1〕フランスパンを3センチ厚さにスライスする。
〔2〕鍋に牛乳、グラニュー糖、シナモンを入れ、混ぜながら弱火に掛ける。40~50度に温め、グラニュー糖、シナモンをよく溶かす。
〔3〕バットやボウルに(2)を移し、(1)を両面よく浸す。小麦粉をまぶしつけて、余分な粉をはたき、溶き卵にくぐらせる。170度の油で色よく揚げる。
〔4〕好みで、シナモンシュガーやメープルシロップなどをかける。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/leisure/snk20130513558.html