PRESIDENT 2012年12月3日号 掲載
■お客も販売員も学生や一般人が多い
テレビが連日のように報道したことで、脱法ドラッグという言葉が広く認知されました。このドラッグは、ネット通販や、堂々と繁華街に専門店まで構えて販売されています。客も販売員も暴力団関係者というよりは、学生やサラリーマンと、ごくごく普通の人たちが多い。店頭に並ぶ脱法ドラッグは、カジュアルなパッケージで包装され、一見するとドラッグには見えません。しかし、濫用者の精神と肉体に影響を及ぼし、遂には殺人未遂事件にまで発展してしまいました。
よく、「薬物の報道は諸刃の剣」と、薬物関係の事件に関わる人たちの間で言われています。特に脱法ドラッグの場合、「警察がなかなか取り締まれない」「残念ながら行政も手も足も出ない」といったような内容が報道で強調されます。
こんなニュースを見たら、濫用者や興味のある人は、「使っても逮捕されることはないんだ」と安心して、使用する人が増えます。脱法ドラッグの実態を報道することが悪いことではありませんが、テレビが取り上げれば取り上げるほど、濫用者が増えていってしまう、という悪循環に陥っていることも事実です。
脱法ドラッグとは、麻薬取締法や覚醒剤取締法の規制対象になっている成分が含まれていない製品という意味です。もちろん規制対象となっているものは、法律で厳重に処罰されますが、脱法ドラッグは麻薬と同じような副作用があるにもかかわらず、取り締まることが大変難しい。
規制対象となっていないからといって、野放しにしているわけではありません。しかし、出回った特定の脱法ドラッグを規制しようとすると、規制対象に指定するまでに数カ月の時間がかかり、その空白の時間に脱法ドラッグ業者は別の規制されていない成分を使ったドラッグを売り出してしまいます。規制が始まるころには、かつての製品は販売を打ち切るので規制が追いつきません。このように法律と業者のイタチごっこが続いているのです。
次々と現れる類似のドラッグを「実質的に同等である」とみなし、規制をしようという動きもあります(包括規制)。しかし、「実質的に同等」とみなされる範囲や条件が示すことをしなければ、刑事法制の大原則からかけ離れたものになってしまうため、有力な解決手段にはなりえません。法規制化への模索がこれからも続いていきそうです。
規制していないからといっても、摂取することは薬事法で禁止されています。食べたり、吸引したりするのはもちろん、これは同性愛者カップルの濫用者に多いのですが、肛門へ挿入することもダメです。しかし、販売店は先ほど挙げたように、お香や入浴剤、ビデオクリーナーなどと言って、「人間が摂取するものではありません」といった注意書きまで入れて販売しています。例えば、効果のない健康食品を効果があると販売したら薬事法違反となりますが、これらの場合、幻覚効果があるのに効果に触れず、吸引目的で絶対に使用するななどと言って販売しています。こうなると犯罪としての立証が難しくなってしまうのです。
脱法ドラッグを安全なものと錯覚し、濫用者が増えていますが、これはとんでもない間違いです。医療用麻薬や覚醒剤などは、人間がどのくらい摂取するとどういう副作用があるか研究の結果ある程度わかっています。しかし常に未知の成分が含まれている脱法ドラッグの副作用は予想ができません。興味本位から死に至ることもありうるのです。脱法、合法、ハーブなどソフトな呼び方は様々ですが、これらも紛れもなく危険なドラッグなのです。
(弁護士 小森 榮 構成=宮上徳重 撮影=坂本道浩)
http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/healthcare/president_9128.html