特殊な色素と赤外線腹腔(ふくくう)鏡を組み合わせて、早期胃がんのリンパ節転移を調べる「センチネルリンパ節生検」が試みられている。転移がないとわかれば、手術で切除する範囲を小さくでき、後遺症を軽減できる利点がある。
胃がんは、がんが粘膜にとどまる早期ならば、口から入れた内視鏡で治療できる。
がんが粘膜の下(粘膜下層)にまで進むと、胃の全部または3分の2と周囲のリンパ節を切除する手術が必要となる。胃を大きく切除すると、体重減少や下痢、食後のめまいや動悸(どうき)などの後遺症が起きやすい。
センチネルは「見張り」の意味。がんが転移する時、がん細胞がリンパ管を通って最初に流れ着くリンパ節を見つけるのが「センチネルリンパ節生検」だ。乳がん、悪性黒色腫はすでに保険で行われている。
センチネルリンパ節を採取して病理検査で調べ、転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断。切除する胃の部分やリンパ節を減らし、後遺症を軽減できる。
センチネルリンパ節を見つけるには、「インドシアニングリーン(ICG)」という緑色の色素を用いる。腹部に複数の穴を開け、がんの周辺にICGを注入し、緑色に染まったリンパ節を探す。
肉眼では見つけにくいため、手術前日に放射性同位元素を注入し、放射線検出器をあててリンパ節を特定する手法を併用する医療機関が多い。一部に保険がきく国の先進医療として行われている。
しかし、放射性同位元素を使った検査は手間がかかり、被曝(ひばく)の問題もある。そこで、ICGが存在する部分としない部分では、赤外線の吸収のされ具合が異なることに着目した検査の工夫が試みられ始めた。
胃がんが見つかり胃の全摘手術を勧められた60歳代の男性は、手術の後遺症が心配になり2012年2月、慈恵医大柏病院(千葉県柏市)で検査を受けた。
検査は、がん周辺にICGを注入した後、赤外線を照射して反射光を感知する「赤外線腹腔鏡」で観察する。この腹腔鏡で見ると、ICGが存在する部分が黒くはっきり見える。
男性は、センチネルリンパ節を採取し、病理検査を行ったところ、転移はないことがわかった。腹腔鏡下でがん周辺だけをくりぬく手術を行い、手術後8日目で退院。手術前に比べて体重の減少はなく、現在も再発はない。
同病院は、大きさが4センチ以下で、画像検査でリンパ節転移が見られない早期がんを対象とし、00年7月から今年2月までに約250人に、この検査法を踏まえた手術を実施した。
転移を正しく判断できた割合は97%だった。外科講師の高橋直人さんは「赤外線腹腔鏡を使った比較的簡単な検査法で、被曝の心配がなく、胃を多く残せる手術が可能となる」と話す。
ただし、有効性の確立にはさらに研究が必要だ。
同病院の場合、先進医療の検査費6万3860円に加え、保険で治療費や入院費などがかかる。保険部分は負担の上限を定めた高額療養費制度が適用される。鹿児島大病院(鹿児島市)でも行われている。
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