日本では骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の患者が1000万人以上もの多数に上ると報告されています。60歳以上の、特に女性では同年の男性の4倍にもみられ、いわば白髪しらがのように、誰にでも起こる骨の老化反応です。これがあると転倒しなくても脊椎骨に圧迫骨折が起こることがあります。また、からだのどこかに発生したがんが転移し、それが原因で同じような脊椎骨の骨折が起こることもあります。
脊椎骨の圧迫骨折が起こると、無症状の方も少なくありませんが、脊柱に強い痛みが生じて動けなくなる場合も少なくありません。鎮痛剤を注射してもらって絶対安静にして寝ていても、それでも激しい骨の痛みが生じるほどです。痛みは3か月も続くことがあります。整形外科に入院して、安静と鎮痛薬の治療を受けなければなりませんが、たとえ痛みがとれても背中や腰が曲がったりすることもあります。
咳で激痛、やはり骨折
私は101歳を過ぎているので、当然、骨粗鬆症はあるので、転んだりしなくてもちょっとした原因で骨折が起こり得ると平素から考えていました。
ある時、最初は風邪をひいて発熱し、ひどい咳と痰で3日間苦しみました。咳をすると肋骨と背中に激痛が起こったので、咳のために肋骨にひびが入ったのではないかと思いました。まずは、普通のレントゲン写真を撮ってもらいましたが、骨折や骨のひびはみつからず、次にMRI(核磁気共鳴画像法)で撮ってもらったところ、第11胸椎骨に骨折の影が見られ、激痛の原因が判明しました。
私が理事長をしている聖路加国際病院では、米国ニューヨーク州のロチェスター大学病院で長年、放射線教授をしておられた沼口雄治先生が、20年ほど前に日本に帰国されて当院の放射線部長となられました。沼口先生は1990年代に米国で広まった経皮的椎体形成術(通称セメント療法)を在米中にいち早く修得され、日本に帰り聖路加国際病院でこの技術による手術を行ってこられました。
この治療法は、骨セメントと呼ばれるPMMA剤(アクリル系の物質)約30グラムに滅菌バリウム粉末約10グラムを混ぜ、レントゲン線透視をしながら2~7ccを圧迫骨折した骨にめがけて注射するものです。手術の終わる頃には、椎体内の骨セメントはちょうど固い石鹸のように固形化しています。
私の術者は沼口先生から教えを受け、うまく手術ができるというお墨付きをもらっている医師です。椎骨骨折が2か所にあれば続けざまに行うこともできますが、私の場合は第11胸椎1か所だけだったので、治療は35分で終了しました。
術後4日目には講演会
手術後、早い人は3時間で痛みが取れ、自立歩行ができます。私は手術後、移動に車いすを使うなどして病室で安静にしていたところ、3日目に痛みが取れ、歩行可能となりました。翌日の術後4日目、さっそく福岡市での私の講演会(聴衆500人)に出かけて、立ったままで1時間話すことができました。
その日は病院に戻り、自宅に帰ったのは術後5日目。そして術後11日目には、嵐と雪とでたいへんな気候状況の中で行われた秋田県能代市での日帰りの講演(聴衆1000人)も、無事に行うことができました。
セメント療法についてもっと情報のほしい方は、聖路加国際病院のホームページの放射線科の欄に詳しく紹介されていますので、ご覧の上、お問い合わせください。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=75026