赤ちゃんや子どもはたくさん眠る。1日12時間前後と、大人の8時間よりかなり多い。しかし、子どもはなぜ、目が見えず、耳も聞こえず、夢という幻覚にも差し挟まれる睡眠に、生活の半分の時間を費やしているのだろうか。はたまた、全ての高等動物はなぜ、毎日数時間、苦労して手に入れた生存能力を睡眠という形で手放しているのだろうか。
子ども自身も睡眠が意識を奪うことに当惑し、腹を立てることがあり得る。われわれ疲れている大人は、このささやかな無意識状態を歓迎するかもしれないが、幼児は昼寝により明るさが消え去ることに対し、ぐずる。
そうした疑問への答えの1つは、睡眠がわれわれの学習を助けることにある。脳が洪水のような新しい経験を取り込むと同時にそれを合理的に理解するのは、難し過ぎるのかもしれない。そのため、脳は一定時間世界を眺め、その後新たなインプットを遮断し、それまでに眺めたものを選別するのだ。
子どもはとりわけ深く学習する。注目される一部の実験によると、小さな乳児でさえ複雑な統計的パターンを持つデータを取り込み、パターンを説明する規則や原理を理解できる。そしてこういった学習では、睡眠が特に重要な役割を果たしているようなのだ。
米アリゾナ大学のレベッカ・ゴメス氏率いる研究チームは2006年、生後15カ月の乳児に架空の人工言語を教えた。乳児は意味のない単語で構成された240の「センテンス(文)」を聞かされた。「Pel hiftam jic」、「Pel lago jic」といった文だ。われわれが実際に使っている文と同様、これらの文は一定の規則にのっとっていた。例えば、1語目が「pel」の場合、3語目は常に「jic」になるといったようにだ。
半数の乳児には文を聞かせ、その直後に昼寝させた。残りの半数には目覚めた直後に文を聞かせ、そのまま起きた状態においた。
4時間後、研究チームはこれらの乳児が新しい文をどのように聞くかを調べることで、乳児が「1語目と3語目」の原則を習得したかどうかをテストした。一部の新しい文は乳児が聞いた文章と全く同じ原則にのっとっていた。中には「1語目と3語目」の原則に従っているが、意味のない全く別の単語を使っているものもあった。
驚いたことに、そのまま起きていた乳児は、4時間前に聞いた文に隠されている一定の原則、例えば「pel」と「jic」の原則を習得していた。もっと驚いたことに、文を聞いた後に昼寝をした乳児は、「1語目と3語目が重要である」というより抽象的な原則を習得していたようだった。それは、実際の単語が何であれ、習得していたようだ。
今月発表されたドイツ・テュービンゲン大学のイネス・ウィルヘルム氏率いる研究チームの論文は、より成長した子どもも睡眠中に学習していることを示している。実際、彼らは大人よりも良く習得した。同チームは子ども(8-11歳)と大人に、格子状の8つの光が一定の順序で何度も点滅する様子を見せた。半数の被験者は夜の就寝前、残りの半数は朝の起床後にそれを見た。10-12時間後、研究チームは被験者にその順序を説明させた。朝に見てそのまま目覚めていた子どもと大人の正解率は約半分で、就寝前に見た大人の正解率はそれをわずかに超える程度だった。しかし、就寝前に見た子どもはほぼ全問正解し、就寝前と起床後のどちらの大人よりもかなり良い結果を残した。
これには別の仕掛けもあった。被験者は睡眠中、脳の活動を計測するための電極付きキャップをかぶった。子どもは「徐波睡眠(slow-wave sleep)」が大人よりも多かった。これは特に深く、夢を見ない類の睡眠だ。この徐波睡眠が多かった子どもと大人、両方の学習結果が良かった。
子どもがこれほどたくさん寝るのは、学習することがたくさんあるからかもしれない(幼児たちは、あの「恐怖の就寝時間」の慰めにほとんどならないと思うかもしれないが)。逆説的なことに、われわれは子どもたちに朝早起きさせて学校に行かせ、夜は宿題のため遅くまで起こして、学ばせようとしているのだ。
報道によると、コリン・パウエル氏(元国務長官)は、イラク戦争開戦を前にして、赤ちゃんのように眠り、2時間ごとに叫びながら目を覚ましたと述べている。しかし、本当に赤ちゃんのように眠れば、われわれはみなもっと賢くなるのかもしれない。
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324559504578381503070027848.html?reflink=Goo&gooid=nttr