■「新郷土料理」提供
食を通じて、日本各地に埋もれている観光資源に光を当てるプロジェクトが話題を呼んでいる。一流の料理人が地元の食材で作り上げた「新郷土料理」を提供する、期間限定の野外レストラン。五感全てで自然や歴史文化の豊かさに触れ、日本の魅力を再発見してもらう試みだ。(榊聡美)
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◆薪能鑑賞しながら
外食を意味する「ダイニングアウト」と名付けられたこのイベントは、その土地を象徴する特別な場所で開かれる。昨年10月に新潟県佐渡市で開催された第1回は、夜のとばりが下りた神社の境内がレストランと化した。かやぶき屋根の能舞台で上演される薪能を鑑賞しながらディナーを楽しむ趣向だ。
何と言っても主役は、一流の料理人が地元食材を駆使して作った新感覚の郷土料理。スペインの三つ星レストラン「エルブジ」での修業経験を持つ山田チカラさんが、佐渡の味覚を組み合わせ、皿の上でも幽玄の世界を表現した。
能と食の融合こそ佐渡の魅力に他ならない。佐渡には、全国にある能舞台の3分の1に当たる30余りの舞台が現存している。
「能が風習としてしっかり根付いている。しかも、会場は大膳神社といって、そもそもが食の神様を祭っているところなんです」
このプロジェクトの仕掛け人である博報堂DYメディアパートナーズ(東京都港区)企画プロデュース部、大類知樹部長は説明する。
非日常の空間にしつらえられたテーブルに着けば、その土地の風土や歴史文化を体感できる。それが、この野外レストランの醍醐味(だいごみ)だ。
◆島民がバックアップ
2回目は、3月15日から沖縄県の石垣島で開かれる。島の中央部にある県内最高峰の於茂登(おもと)岳のふもとだ。島のシンボル、ガジュマルの大木の下にテーブルが配され、八重山民謡の響きが独特の雰囲気を醸し出す。
料理を手掛けるのは、東京・広尾にあるフレンチレストラン「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」のオーナーシェフ、下野昌平さん。
一つの素材を調理法や温度を変え、趣の異なる2皿に仕立てるなど、素材に秘められた個性を引き出すのが下野さんの真骨頂。ダイニングアウトの概念とも結び付く。
島へ足を運び、準備に余念のない下野さんは「島野菜や香辛料など、珍しい食材が多くておもしろい」と目を輝かせる。
今回は、料理に使う器の一部を石垣在住の陶芸作家に依頼。地元のバーテンダーが料理に合わせたオリジナルのカクテルを作るといった、島民とのコラボレーションも実現した。
「島にはIターン者が多く、その人たちがタッグを組んで応援してくれているんです」と大類部長。
石垣市の中山義隆市長も「新空港の開港(3月7日予定)を機に、八重山の新たな魅力を発信して多くの方々に訪れてもらいたい」と、イベントに期待を寄せる。
◆日本の観光資産に
食には人を引きつける力がある。食文化において、輝いているのは地方だ、と大類部長は言う。
「ゆくゆくは地元の人たちだけで開催できるよう、ノウハウは全て公開しています。そうしないと地域の活性化につながらない」
さらに、世界にも通用する日本の観光資産に育てていきたいと意気込んでいる。
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「ダイニングアウト八重山」は3月15~17日、22~24日、29~31日の9日間。ランチ1万500円、ディナー2万1千円。JTB主催のツアーも。詳細はウェブサイト(www.diningout.jp)へ。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130217/trd13021709020002-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130217/trd13021709020002-n2.htm