「食べるラー油」に負けるな…「本みりん」の逆襲、宝酒造の戦略
食べるラー油、塩こうじ、ジュレタイプ…。数々の調味料ブームが巻き起こるなか、次のブームを虎視眈々と狙っているのが、「本みりん」だ。餅米を発酵させた酒の一種である「本みりん」は和食に欠かせない調味料とされてきたが、近年は低価格の「みりんタイプ(発酵調味料)」「みりん風調味料」に押され、消費量も伸び悩み。本みりんのよさを知ってほしいと、カレーやラーメンの隠し味に、また「みりんプリン」「みりんクレープ」など新しいレシピを提案したりと、メーカー側も知恵を絞っている。(佐々木詩)
■みりんの意外な使い方
「ミリンプキン・プディング」(みりんプリン)「みりん塩キャラメル」「バナナとオレンジのみりんクレープ」…。昨年11月末、全国味淋協会(東京都中央区)が行った、「本みりんdeお料理コンテスト」スイーツ部門の入賞作品だ。やわらかで上品な甘みというみりんの特性を上手に利用して極上スイーツに仕上げた。「どれも本当においしいんですよ」と同協会事務局の渡辺康雄さん。同協会では平成20年からホームページ上でプロのみりんレシピを公開、昨年11月30日の「本みりんの日」に合わせて一般からレシピを募るコンテストを実施した。「和食の煮物、というイメージが強いですが、本みりんは実は万能調味料。中華や洋食などもっといろんなシーンで使っていただきたい」と渡辺さんは話す。
「タカラ本みりん」などを販売している宝酒造(京都市下京区)は、さまざまな料理に「ちょい足し」する利用法を提案、「“ちょっと足すだけ”おいしいレシピ」と題した冊子を作りスーパーなどで配布したほか、ホームページ上でも紹介している。
「ホットケーキミックス4枚分につき、大さじ1杯入れるとモチモチ感アップ」「レトルトのパスタソース2人分につき、大さじ1杯入れると酸味が優しくなり、レトルト臭が消える」「カレー4人分に大さじ1杯で短時間でも煮込んだ味に大変身」など、和食の域を越えた意外なちょい足しアイデアが並ぶ。同社広報の坂口智子さんは、「エビチリに使ったり、インスタントラーメンにちょい足ししてもいいですね」と話す。
■日本を代表する調味料なのに…
メーカーや業界が「本みりん」のPRに力を入れるのには、「醤油と並ぶ日本を代表する調味料なのに使われていない」というもどかしさがある。
実は「みりん」と呼ばれる調味料には三通りある。液状の糖類と醸造酢などで作られ、アルコールがほとんど入っていない「みりん風調味料」と、米や麹などを醗酵させアルコール分は本みりんと同じくらいあるものの、塩分を添加し「不可飲措置」を施すことで、酒税法の適用を受けない「みりんタイプ」などと呼ばれる発酵調味料。そして、餅米を発酵させた酒の一種でアルコール度数14%の酒類調味料である「本みりん」。
もともとはみりんといえば「本みりん」を指したが、戦後、みりん風調味料と発酵調味料が登場、酒税法対象外のため安価で、本家本元である「本みりん」の消費者を奪っていった。宝酒造によると、平成22年の“みりん”と呼ばれる調味料の市場の48%を発酵調味料が占め、本みりんは36%にとどまっている。
■味の“まとめ役”
「本みりんは餅米を醗酵させて作ったお酒。自然に糖化されることで複雑な糖が形成され、18種類以上のアミノ酸が含まれるため、うまみがあり砂糖よりも上品でまろやかな甘みが出ます」と宝酒造商品部家庭用調味料グループ長の細野英一郎さん。「醗酵調味料にはかなりの量の塩分が入っているが、知らずに使い塩分過多の食生活になってしまうケースもある。本みりんだからこそ出せるおいしさを消費者のみなさんに知っていただきたい」と話す。
調味料アドバイザーの古谷史織さんは、「本みりんは味のまとめ役として、料理のカギになる調味料。スーパーでよく見かけるものでも十分おいしくなります」と魅力を語る。本みりんはアルコールが蒸発する際、食品の臭みもとばし、煮くずれ防止にも一役買うのだという。「安いお肉を買っても、調理前にみりんをなじませておくと肉の臭みが飛び、プリっとした食感に仕上げることができ、おいしく仕上がるので、家計にもやさしい調味料ですよ」と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130127554.html