注目される「畳ドクター」 和風の流行で全国に1500人以上
日本という風土の中で受け継がれてきた「畳」。その畳の傷み具合など状態の診断や、健康に良い作用を施す畳の選別などができる職人が、全国畳産業振興会(京都市)が認定する「畳ドクター」だ。いわゆる畳を診断する“医師”的な存在で、すでに全国で1520人が認定されているという。そのモダンな名称にも引かれ、内情を聞いてみた。
■畳のにおいにリラックス効果
「畳のにおいは気分をリラックスさせ、室内に余分な湿気を残さない。だから、畳の部屋は結露が少ない。鍋料理をしたら、よくわかりますよ。そんな畳の良さを、きちんと伝えていきたいと思っているんです」
大阪府泉佐野市にある小薮商店。畳のにおいがいっぱいに広がる店内で、店主の小薮普介さんが口を開いた。編み込まれたイグサを畳床(たたみどこ=畳の基礎となる板材)に手際よく縫い付けていく様子は、まさに職人芸だ。
父親が経営する畳店を継いで29年。見て学ぶことが当たり前という職人の世界の荒波にもまれ、父親や先輩の職人らの仕事を見ながら腕を磨いた。平成21年に「畳ドクター」に認定され、今年10月には斬新な畳施工アイデアや画期的な取り組みを行った「畳ドクター」を表彰する「畳ドクター 匠の技 全国選手権」で優秀賞を受賞した。
「お客さんに満足してもらえたことが何よりもうれしい」。「匠の技」は、客へのアンケートなどをもとに振興会が選考、受賞は客への丁寧な態度や的確なアドバイスがなされていたことの裏付けになるという。
■畳ドクター、全国で1520人
小薮さんも認定されている「畳ドクター」とは、いったいどんなものだろうか。振興会によると、畳についての知識が豊富で、畳替えなどのアドバイスを的確にできる職人を「畳ドクター」として認定しており、平成21年4月から始まった。
現在、全国に1520人いるといい、「畳ドクター」であることを地域に広くアピールしながら客に畳替えの時期などを助言したり、相談に乗ったりしているという。
もともと、現代の住宅事情や人々の価値観の変化などに対し、畳の良さを後世に引き継いでいくだけでなく、積極的にその魅力を発信しようと始めたのが、「畳ドクター」制度。だが、その反響が大きかったことから、平成22年からは全国各地の優秀な「畳ドクター」を表彰する「畳ドクター 匠の技 全国選手権」を実施。客のアンケートなどをもとにしながら、的確な助言や相談対応をした畳ドクターを顕彰しており、今年は小薮さんらが受賞したという。
■ピンクの畳の出来栄えは?
「国産と海外産の畳表の見分け方を教えていただき、勉強になりました。…」
小薮さんに畳替えを依頼した客から寄せられたアンケート用紙の抜粋だ。畳ドクターと客とのコミュニケーションがきっちりととれていることを示しており、振興会側も「匠の技」受賞に太鼓判を押したという。
「畳ドクター」制度は、全国の畳職人らをネットワークでつなぐことにもなり、今後の技術や伝統の継承などにとっても強固な後押しになるものと期待されている。また、それぞれのサービス事情が互いの商売に参考になるなどのメリットも指摘されている。
それでも、小薮さんは畳の将来を不安視する。「日本の家屋そのものの洋風化はとめられない。日本人の暮らしの中で、当たり前の風景だった『畳の間』は年々減ってきているのは確かだ」
畳ドクターとして客との相談に乗るなか、従来の畳と異なるものを要望され、戸惑ったことも。「『ピンクの畳』には驚かされた。これまで2色の畳を敷いたケースはあったが、ピンク一色は初めてだったから」。ところが、実際に仕上げてみると「明るくてきれい」と大好評。畳の新たな可能性も感じられたという。
それでも、やはり昔ながらの畳を作り続けたいというのが本音だ。
「『和室=畳のにおい』のように、日本の文化って畳でつながっているところがある。そんな本来の姿に戻したいですね」
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130102507.html