SARS類似の新種コロナウイルスが中東で確認され、警戒が必要です。
2003年に中国や香港で大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)は、多くの方の記憶に新しいでしょう。
SARSは38度以上の発熱とせき、深刻な呼吸障害を引き起こす感染症で、根本的な治療法は見つかっていません。9年前の大流行は、中国・香港から瞬く間に広がり、発症者数は、アジアをはじめ北米、欧州、アフリカまで世界中で約8000人にのぼり、このうち800人近くが死亡しました。
日本国内では、最終的に発症者は確認されず、感染疑い例が出ただけでしたが、社会は緊張の度合いを高めました。
9年前に感染が広がったSARSの原因は、「コロナウイルス」の新種であったと特定されています。世界保健機関(WHO)によると、コロナウイルスとは、いわば<ウイルスの大家族>で、感染すると普通のかぜの症状をもたらすものから、SARSを引き起こしたものまで、さまざまな種類があることが知られています。人間のほかにも豚やマウス、ニワトリなども感染し、変異しやすいという特徴もあります。
ウイルス粒子の表面に、王冠のトゲトゲのような突起が多数あること、その突起が粒子を取り巻く姿が太陽のコロナ(ラテン語で「王冠」の意)に似ている――というのが名前の由来です。
今このコロナウイルスで、さらなる新種が確認され、中東諸国で重症患者の発生や死亡の報告例が、じわじわと増えてきています。WHOが2012年11月末時点でまとめたところでは、新種コロナウイルスの感染者は、ヨルダン、サウジアラビア、カタールの3か国で合計9人、うち5人が死亡しています。共通する症状は、重篤な呼吸不全と腎臓機能の低下で、発症者全員が極めて重い症状を呈しています。
また、サウジアラビアの患者は、同一家族から3人が発症(うち2人死亡)しているため、「人から人への感染」の可能性も指摘されていますが、現状でWHOは、「人から人への感染が容易に起きているとは認められない」としています。
これまでのところ、新種のコロナウイルスの発症例は、中東のアラビア半島という地域に限定され、患者の数も多くはありません。しかし、気になる点は、「時間の遅れ」です。
WHOが今回の新種コロナウイルスについて本格的な分析を始めたのは、今年9月に死亡したカタール人男性が英国の病院へ搬送され、ここで正式な検査結果が判明した後からです。これを機に、各国の症例をさかのぼって調べ直したところ、6月ごろに死亡したサウジアラビア人のケースでは、死亡から約3か月後の9月になって新種コロナウイルスへの感染が確認されました。さらに、4月に死亡したヨルダン人のウイルス検出は、感染から半年も経過した後の11月になってからでした。
このように、WHOや各国の衛生当局による新種コロナウイルスの検出は、最初から大きく後手に回っており、「9人発症・5人死亡」という報告が、実情を正確に反映したものかどうかは明らかでありません。「感染はどこまで広がっているのか?」について議論の余地も残りますが、各国が監視体制の強化に力を入れるべき時期に来ていることは間違いありません。
(読売新聞 調査研究本部主任研究員 渡辺覚)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121210-00000303-yomonline-sctch