肥満、高血糖を防ぐ食べ方「最初に野菜」が効果的
ご飯やパンなどの主食を控える「糖質制限ダイエット」。雑誌の特集などで取り上げられる一方、「長期的な健康影響が検証されていない」との指摘がある。そもそもおコメ好きにとって、ご飯を存分に味わえないのはつらい。肥満や高血糖を防ぎ、無理なく続けられる食事法はないものか。【大槻英二】
◇糖の吸収を緩やかに ご飯は最後、自分で盛る 「すきっ腹に酒」も避けて
「確かに糖質制限をすれば血糖値は下がり、体重も減るでしょう。しかし、極端にカットすると栄養失調状態になり、カロリー不足を補おうと脂肪だけでなく、筋肉などのたんぱく質も燃やしてしまうため、非常に危険です。特に糖尿病患者の場合、脂肪の燃えかすであるケトン体が増えて体内が酸性になり、免疫力の低下が心配です。健康な人が短期間、肥満解消目的で取り組むのならともかく、長期間続けるのはお勧めできません」
糖質制限ダイエットのブームに警鐘を鳴らすのは、京都市で内科クリニックを開業する糖尿病専門医の梶山静夫さんだ。では、どうしたらいいのか。梶山さんが推奨するのは「食べる順番療法」だ。04年の開院以来、患者約1000人に指導し、その成果を日米の学会で発表してきた。
実践方法は簡単だ。これまでとメニューを変える必要はなく、食べる順番を変えるだけ。「まず最初に野菜を食べきる」「次に肉や魚、卵、大豆などのおかず(たんぱく質)を食べる」「最後にご飯やパン、麺類、イモ類などの炭水化物を食べる」の3段階からなる。野菜にはきのこ類や海藻類も含まれる。
梶山さんは、「なぜ、『食べる順番』が人をここまで健康にするのか」などの共著がある管理栄養士で大阪府立大教授の今井佐恵子さんと共同で研究を続けている。糖尿病患者15人を対象に、ご飯150グラムと野菜サラダを食べる順番を変えて血糖値を計測したところ、「ご飯が先」より「野菜を先」にした方が食後血糖値が上がりにくかった=上のグラフ参照。健康な人を対象にした調査でも、同様の結果が得られた。
「野菜に含まれる食物繊維が、炭水化物から分解されたブドウ糖の吸収を緩やかにすることは以前から知られていましたが、野菜を先に食べて“待ち構えさせる”ことで効果はグンと高まります。生活習慣に起因する2型糖尿病患者やその予備軍は、血糖値を下げる働きをするインスリンの膵臓(すいぞう)からの分泌が遅れがちなため、それに合わせて食後血糖値を上げない工夫が必要なのです」と梶山さん。元々は「従来の食事療法はカロリー計算が面倒」という糖尿病患者向けに梶山さんらが考案した。
肥満解消にも効果があるのか。今井さんによると、体重が88・8キロあった60代の糖尿病の男性が食べる順番療法に取り組んだところ、1カ月で7キロ、5カ月で13キロ減り、血圧や悪玉コレステロール値なども改善した。2年半にわたる300人以上を対象にした研究で裏付けられたという。今井さんは「『まず野菜』を意識していれば、野菜の不足にも気付き、多く取るようになります。おかずもご飯と同時に食べるより薄味を好むようになる。最後にご飯を自分でよそうようにすれば、その頃にはもう満腹感を感じているので、自然と食べる量が減るのです」と話す。
しかし、中には食後血糖値の急上昇が改善しない人がいる。原因は「早食い」だ。野菜サラダを食べきるのに最低5分、ご飯に至るまでに10分以上かけるのが理想だ。「30回かむと良いというデータもありますが、口の中の食べ物が全部なくなってから次の物を入れるように心がけると、ゆっくりよくかんで食べることができます」(今井さん)
野菜の摂取量は1日400グラムを目標にしたい。コンビニ弁当や外食が多い人は「野菜サラダを加えて先に食べる」「トマトや野菜100%のジュースを先に飲む」ことで同様の効果が期待できる。ただし、コンニャク以外のイモ類、カボチャ、レンコン、トウモロコシなどは炭水化物が多く含まれているため、ご飯と同じ扱いになるので要注意だ。
生野菜は苦手という人は、ブロッコリーやカリフラワー、タマネギなどをシリコン製容器に入れて電子レンジでチンすれば、手軽に「蒸し野菜」ができる。カサが減り、たくさん食べられる。お酒を飲む場合は「すきっ腹にビール」を避け、やはり野菜サラダを先に食べてから、おかずをつまみに飲むといい。
サラダ、スープに始まり、肉や魚のメーンディッシュ、ご飯やパスタという順番で時間をかけて味わうコース料理は理にかなっている。逆に学校給食でご飯を一口食べたら、おかず、汁物を一口と「三角食べ」をたたき込まれてきた人にとっては、おかずだけ、ご飯だけと同じ物ばかり食べ続けるのは少々ストレスを感じそうだ。
「糖尿病患者や肥満解消目的の人は厳格に取り組む必要がありますが、生活習慣病予防など健康目的の人は『最初に野菜』だけでも守れば、おかずは半分残して、ご飯と一緒に食べるなど、できる範囲で取り組んでもらって構いません。食事は楽しむことが一番ですから」と梶山さん。なるほど、それを聞いてひと安心。さっそく試してみよう。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20121206dde012100015000c.html