最近、子どもたちの中に、従来より年齢の離れた「年の差きょうだい」が目立っているという。そんな声を聞き、事情を探ってみた。【田村佳子】
横浜市の会社員、中井久美子さんには8歳の長男と2歳の次男がいる。6学年違うので、長男が小学校を卒業した後、次男が入学することになる。兄弟が同じ学校に在籍することはない。
長男の出産後3年近くしてからフルタイムの激務に復帰した中井さんは「仕事をしながらの初めての育児。すぐ2人目は考えられなかった。落ち着いた頃には、上の子が5歳になっていた」と話す。
ベビーカーなど、長男が使ったベビー用品の多くは保管していたが「年月がたって劣化していたり、流行が全く変わっていたりして、結局買い替えた」という。周囲に5歳、6歳と年の離れた子どもを持つママ友は少なくなく、こうした話にも共感してくれる。
育児に関する親の経済的、体力的負担は長引くが、中井さんは「ゆっくり育児できている気がしてよかった」と話す。
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「統計的にも、きょうだいの年齢差に最近広がりが見えます」
こう話すのは、関西大学社会学部の保田時男(やすだときお)准教授。保田准教授が日本家族社会学会の「全国家族調査」(09年実施)を用い、第1子と第2子の年齢差をまとめたグラフ=別表=を見ると、年齢差が「2歳以内」の割合が減り、逆に「5歳以上」の割合が増えている。
妊娠初期の妊婦向け季刊誌「初めてのたまごクラブ」の編集長、中西和代さんによると、読者アンケートで「2人目を妊娠中」と答えた人の割合は、00年代前半の5~8%程度から漸増し、昨冬以降は2ケタを維持。今年6月に発売した「夏号」では16%に上った。
雑誌の内容は妊娠の基礎知識が主で、通常は初めて子どもを産むママが買うものだが「忘れた頃に妊娠した人が増えているのかも。実際『久しぶりの育児です』という投書も、最近よく見ます」。12月発売の最新号では、初めて「2人目を産むママ向け」の内容も盛り込んだ。
きょうだいの年齢差がなぜ広がっているのか。育児や家族研究にかかわる識者は、複合的な理由を挙げる。
東洋大学社会学部の西野理子(みちこ)教授は「考えられるのは第2子ができにくい『2人目不妊』」と指摘する。また「子育ての負担・不安、仕事復帰への不安が高まるなか『子どもは1人で精いっぱい』と考えたり『1人目の子育てが一息ついてから』と考える夫婦が増えている可能性がある。一方で『子どもは複数』という規範は根強く、やはりもう1人、という選択に落ち着くのではないか」と推測する。
「初めてのたまごクラブ」の中西編集長は「今の母親はお金に非常にシビア。お金がかかるのが心配で、もう1人産んでも経済的に大丈夫、と思えるまでに時間がかかるのかも」と付け加える。
また、育児誌「ひよこクラブ」の仲村教子(ゆきこ)編集長は「初産(ういざん)の年齢が昔より幅広くなっているのと同じで、年齢差についても『標準』に縛られず、自分の考えで選んでいる」とみる。ただ、35歳以上で第1子を産む高齢出産が増えている現状や、高齢になるほど妊娠しにくい現実が知られてきたことを考えると「これ以上年が離れたり、年の差きょうだいが増え続けることはないだろう」とも予想する。
一方、国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆・人口動向研究部第1室長は「現状、増えているのは事実だが、団塊ジュニアの人口が多く、その下の世代が少ないために、統計の見かけ上起きた一時的な変化の可能性もある」と話す。
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年の差きょうだいを持つ人に聞くと「上の子が下の面倒を見てくれてラク」「けんかが少ない」とメリットを語る人がいる半面「行きたい場所や見たい番組が異なる」「在学期間が重ならないと、入園時の兄弟加算がなく保育園に入りにくくなったり、きょうだい割引が使えなかったりする」「PTAの役員免除がない」とデメリットを訴える声もある。
育児に関する著書の多い菅原ますみ・お茶の水女子大教授(発達心理学)は「メリットの方が大きいのでは。親は余裕を持って育児を楽しめる」と肯定的。子どもの頃に赤ちゃんとの接触体験がある人は子育てに自信を持てるというデータもあり、「上の子は赤ちゃんのかわいさ、うるささを間近で体験でき、記憶にも残る。今の時代には貴重な経験で、ぜひ『育児』に参加させて」と勧める。
半面、年長児は我慢を強いられることも多い。菅原教授は「時には下の子を預けて上の子と過ごす時間を持つといい。頼りにする時は『さすがはお兄ちゃん、お姉ちゃん』と持ち上げましょう」とアドバイスしている。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/education/20121203ddm013100039000c.html