毎朝、目を覚ますと、血の気が引き胸がどきどきする。一日の始まりが怖い。現在の診断は「不安障害」。5種類の向精神薬が欠かせない。
大阪府の稲谷佳子(いなたによしこ)さん(48)が子宮頸(けい)がんと診断されたのは04年夏。「会社で営業職のリーダーとなり、仕事に生きがいを感じていた頃だったのでショックだった」。がんは初期のうちに大学病院で手術。退院後、切除部分の痛みの影響などで仕事を辞めざるをえなかった。
精神科でもらった向精神薬を飲んで痛みを鎮めた。そして、別の会社で正社員として働き始めたが、08年冬に子宮体(たい)がんが発覚。手術で高額療養費制度(自己負担額月8万円余)を使っても雑費を含め2カ月で約30万円かかった。
治療の不安、医療費負担など悩みがあっても、本音で相談できるのは入院時に知り合ったがん患者だけ。医療費は毎月数万円。今はパート社員で、年収は以前の3分の1以下だ。稲谷さんは「臨床心理士のカウンセリングも受けたいが、1時間1万円もかかる」と二の足を踏む。
治療の選択肢が多く、医療費が高くなりがちながん患者が相談先を求めて医療機関を渡り歩く例は少なくない。この問題を解消するため、全国のがん診療連携拠点病院には、「相談支援センター」が設置されている。しかし、財団法人「がん集学的治療研究財団」が09年度に行った調査では、週50件以上の相談を受けている施設が全体の1割近くある一方で、週10件に満たない施設は約4割に上り、利用頻度は高くない。
NPO法人「日本医療政策機構」の10年のがん患者意識調査では、治療後の心の悩みや後遺症への支援を望んだ患者の4割近くが支援センターの存在を知らなかった。また、国立がん研究センター東病院が、同病院を含む4拠点病院の患者を調べた結果、精神的な相談をしたくない人は約25%いた。理由は「自力で解決したい」「他人がどう思うか心配」などで患者自身が支援を避ける傾向も浮かぶ。
こうした実態に、家族や生活、将来の悩みを抱える患者と対話する「がん哲学外来」を全国で開く樋野(ひの)興夫(おきお)・順天堂大教授は「今の病院の相談システムは、情報提供や話を聞くことにとどまり、患者は『聞きたいことに答えてもらえない』と戸惑っている」と指摘。がん患者団体「グループ・ネクサス」の天野慎介理事長は「病院は、病気の経験者や患者団体とも協働し、個々の患者の相談に対応できる体制整備を急ぐべきだ」と話す。
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■ことば
◇不安障害
不安が頻繁に生じたり、頭痛やめまい、不眠などが通常以上に強く表れ、日常生活に支障が出るほど不安が強く長く続いたりする状態。パニック障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などが含まれる。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20121126ddm003040073000c.html