■避難三原則は成功例
東日本大震災で、岩手県釜石市の小中学生のほぼ全員約3千人が津波から避難した「釜石の奇跡」について、今月9日から東京で総会を開催する世界銀行が、防災教育の重要性を示す「大震災からの教訓」として発表することが1日、分かった。英語で「カマイシ・ミラクル(KAMAISHI・MIRACLE)」と表現しており、「ツナミ(TSUNAMI)」とともに、日本発の防災用語として世界に定着することが期待される。
世銀は、インフラが脆弱(ぜいじゃく)なため災害に苦しむ途上国へ対策を提言するため、東日本大震災を調査・分析し、32の「教訓集」としてまとめた。教訓集の中では、人命を救った成功例として「カマイシ・ミラクル」を取り上げた。
教訓集は今月初旬に世銀のホームページで公開。総会開催期間中の同月9~10日に仙台市で開催される「防災と開発に関する仙台会合」や、14日に都内で行われる一般公開の「東日本大震災からの教訓セミナー」でも紹介される。
「釜石の奇跡」は、避難対策を専門とする群馬大・災害社会工学研究室(片田敏孝教授)が8年間にわたり釜石市と津波避難対策を検討。避難三原則「想定を信じるな、状況下で最善を尽くせ、率先避難者たれ」を掲げ、防災教育や避難訓練を行った結果、未曽有の大災害の中で子供たちの自主的な判断力・行動力を生み出したとされる。
これらの評価のもと、全国の自治体が防災教育として採用。また、トヨタや富士通、JRなど大手企業も、社員の自主性を促し創造性を高める教育効果があるとして導入している。
教訓集のとりまとめを担当した世銀の石渡幹夫・上席防災管理官は「大津波からどう避難するかという最重要課題は、20万人以上の死者をだした2004年のスマトラ沖地震でも議論されたが、防災情報の提供やハード面に話題が終始した」と指摘した。
そのうえで「釜石の奇跡」への評価について、「避難へかりたてるために人々の意識をどう変えるかという難問を解決する道筋を明確に示した。教訓集の中でも日本発の世界への貢献の大きな柱となっている」としている。
【用語解説】釜石の奇跡
昨年3月11日の東日本大震災時、岩手県釜石市の小中学生のほぼ全員にあたる約3千人が津波から無事避難したことを指す。震災当時在校し集団で避難したケースもあったが、ほぼ全員が下校していた学校もあり、下校していた児童・生徒らも自主的な判断で無事避難した。大震災後、群馬大と釜石市が共同で行った全児童・生徒への実態調査では、全員が地震の揺れが収まると同時に避難を開始していたことが分かっている。これらの成果は、釜石市が群馬大の片田敏孝教授の指導で独自に取り組んだ防災教育の成果とされ、総理大臣表彰を受けている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121001-00000099-san-soci