骨、関節、筋肉など運動器の機能の維持・改善を支援する「日本整形外科学会」は、このほど東京都内で高齢者の骨折に関するセミナーを開いた。現在、高齢者の要介護原因のうち、1割を骨折や転倒が占めており、講演した帝京大学医学部整形外科学講座の松下隆・主任教授は、寝たきりに通じる足の付け根の骨折「大腿骨近位部骨折」の原因を、「骨がもろくなることと、転びやすいこと。転んでいないのに折れるということはほとんどない。骨を丈夫にすることのほかに、転ばないようにすることが大事」と訴え、骨密度検査と片足立ちやスクワットなどの「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」、室内の危険箇所の点検や改善を呼びかけた。
セミナーは「骨折の予防・治療・リハビリの実態から未来を考える~ドミノ骨折を防ぎ、健康寿命を延ばすために~」と題して行われた。大腿骨近位部骨折の発生件数は、87年に約5万3000人であったが、年々増加しており、07年には約14万8000人、50年には30万人を超えると予想されている。
松下教授は、厚生労働省が5月に発表した日本人の平均寿命が男性79.55歳、女性が86.30歳でありながら、同省が6月に初めて発表した介護を受けることや寝たきりになることなく自立して健康に生活できる期間「健康寿命」が男性70.42歳、女性73.62歳だったことを提示。その差を縮めるために、メタボリックシンドロームや認知症の対策に加え、骨、関節、筋肉、腱、神経などの運動器の障害によって要介護になる危険が高い状態「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」の対策が必要と説いた。
しかし、松下教授が、40代以上の男女3000人を対象に12年9月5~6日にインターネットで行った調査(複数回答)によると、高齢になると骨折のリスクが高まることを知っていた人が95.8%に上る一方で、骨密度を定期的に測っている人は12.6%で、血圧を測っている人(75.7%)、コレステロール値を測っている人(57.2%)を大きく下回った。また骨折の原因が骨の強度が弱くなることだと認識している人は84.7%だった一方、転倒しやすくなることだと認識している人は22.7%だった。また骨の強度低下を防ぐために行っていることは「特にない」と答えた人が36.0%、転倒しやすくなることを防ぐために行っていることは「特にない」と答えた人が38.5%だった。
その結果を受け、松下教授は「まずは自分で、高齢になると転ばない努力をしなければいけない、骨が折れる確率が増えるということを自覚していただきたい」とし、「バランスと筋力アップを心がけること。ロコトレのほか太極拳が効果があるといわれている。一本足立ち訓練は、非常に転倒予防に効果がある。またじゅうたんの厚みに引っかかって転ぶなど、ほんの小さな段差は転びやすいので、家中からそういうものをなくすように」と提言した。さらに「(片足立ちで靴下がはけるか、階段を上るのに手すりが必要かなどの)ロコチェックをし、リスクのある人は骨密度の検査をすること、ロコトレで転ばないようにすることが大事」と話した。
また初回の骨折のほか、「2回目以降の骨折の連鎖『ドミノ骨折』を減らす努力が必要」といい、脊椎(せきつい)が押しつぶされるような骨折「脊椎圧迫骨折」を起こした人、片方の大腿骨近位部骨折を起こした人が、次に大腿骨近位部骨折を起こす割合はそれぞれ約3~5倍、約4倍であるとし、かつ3人に1人の割合で最初の骨折後、1年以内に発生すると話した。ドミノ骨折の予防について薬を用いた骨粗しょう症の治療を積極的に行うこと、骨折前よりも積極的に起立歩行訓練などの運動をすべきことを挙げている。
ロコチェックは、日本整形外科学会の「ロコモチャレンジ!推進協議会」のサイトで行うことができ、同サイトではロコトレの方法も紹介されている。(毎日新聞デジタル)
http://bizbuz.jp/article/20120918/20120918dog00m020014000c.html