日常的な診療や健康管理をしてくれる身近なお医者さんが、いわゆる「かかりつけ医」だ。かかりつけ医を決めておくと、命にかかわる急性疾患を早期発見できたり、適切な生活習慣病対策が可能になったりする。健康な人がかかりつけ医をどう活用するか、専門家に聞いた。
大病院に患者が集中して、待ち時間が長くなる、救急患者の受け入れが困難になるなどの問題を受けて、国や地方自治体はかかりつけ医を中心とした医療連携制度を提唱してきた。
患者はまず診療所(開業医など入院治療をしない地域の病院)でかかりつけ医の診察を受け、病状に応じて適切な病院を紹介してもらう仕組みだ。
東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター長の奈良信雄教授は「普段から患者と医師が良好なコミュニケーションを持つことが医療の質を高める」と話す。例えば胸部に痛みがある場合、食道炎、狭心症、心筋梗塞など様々な病気の可能性がある。奈良教授は「かかりつけ医は患者の体を熟知しているので、どの診療科の検査が必要なのかを指示できる。心筋梗塞や脳梗塞などの急性疾患で命を落とす人を減らすためにも重要な役割を果たす」と話す。
メタボリックシンドロームなど生活習慣病の対策は、かかりつけ医の最も重要な役割だ。最近の疫学研究では、糖尿病、高血圧などの発症は20~30代の生活習慣が大きく影響することが明らかになっている。また体質によって発症リスクや治療開始の時期も異なる。かかりつけ医は患者の体の変化を長年見続けて、適切な時期の精密検査や、体質に合った生活改善法を提案できる。
日本プライマリ・ケア連合学会の丸山泉理事長は「かかりつけ医は正式な制度名ではない。しかし、様々な病気を診断できる能力を持ち、患者が置かれた社会環境を把握しながら、健康作りを提案できる医師が必要とされている」と話す。
同学会では2010年からこうした医師を認定(家庭医療専門医、プライマリ・ケア認定医)してきた。厚生労働省も「総合診療医(仮称)」の育成制度の検討を今年始めた。
各診療科の専門医の期待も大きい。例えばかかりつけ医と精神科医が連携して自殺者を抑制する試みが始まっている。内科などで「眠れなく体がだるい」といった症状を訴える患者に、かかりつけ医が精神科を紹介する。
また日本腎臓学会は今年6月にガイドラインを改定、かかりつけ医に腎臓内科の専門医を紹介するタイミングを分かりやすく示した。無症状のまま進行する慢性腎臓病(CKD)は患者数が1300万人と糖尿病に次ぐ国民病と呼ばれていて、その対策に役立てる。
それでは、若くて健康な人で、診療所や病院を受診する機会がほとんどない場合、どのようにかかりつけ医を見つければいいのだろうか。丸山理事長は「認定医の数が増えるまでには時間がかかる。しばらくは地域の医師会などに相談して、自分の住む地域で、長く通える医師を探すといい」と話す。
■不在時の対応も
全く当てがない場合は、まず家族や知人の評判で選んでもよい。奈良教授は「かかりつけ医を持つメリットを実感してほしい。病気の治療に限らず、自分の体調に不安に感じたとき、健康づくりに積極的に取り組みたいときに、何でも相談にのってくれるのがかかりつけ医」と話す。
例えば、定期健康診断の結果で特定の項目に要注意のマーク(高値、低値)が付いたときに、地域の内科などを受診し「数値が気になるので改善方法など教えてほしい」と相談することが、かかりつけ医とのつきあいの第一歩になる。
必要なときに必ず受診できるのも重要。夜間、休診日、学会出席で不在のときなど、かわりに診てくれる医師が決められているなど地域の連携体制は大切だ。奈良教授は「診療所が基本だが、地域の病院の勤務医や、勤め先の産業医をかかりつけ医としてもいい。納得のいくコミュニケーションが築けるかがポイント」と話す。意思の疎通がうまくいかない場合はある。長くつきあえそうだと思える医師と出会えるまで何人か探すのがよい。
■大病院が「逆紹介」も
医療連携制度の構築が進むなかで増えているのが、大病院が患者にかかりつけ医を紹介する「逆紹介」だ。例えばがん治療は、地域の大病院や専門性の高い「がん診療連携拠点病院」などで行われる。ただ入院治療が終わった後に、患者が遠くの病院まで通うのは負担が大きい。そこで大病院側が、がん治療の知識を持つ地域のかかりつけ医を紹介して、精密検査などを除く日常的な投薬や診療を分担する。
がん治療だけでなく糖尿病、心臓病などでも逆紹介をする病院は多い。通院に負担を感じたら病院の「医療連携推進室」などに相談してみよう。スタッフが担当医と相談しながら、かかりつけ医を探してくれる。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46375030R20C12A9W13001/?df=2












