白菜の浅漬けを食べて、北海道内で7人が死亡した集団食中毒。病原性大腸菌O157による食中毒といえば「肉類が危険」との印象が強いが、実は野菜が原因となった例も多い。浅漬けのどこに、危険が潜んでいたのか。
札幌市保健所が「高齢者施設で入所者が食中毒症状を訴え、死者が出ている」と発表したのは8月11日夜。その後、市や道の調査で、原因食品は給食で出た「岩井食品」(札幌市西区)の浅漬け「白菜きりづけ」と断定された。材料の野菜が納入前にO157に汚染され、製造段階の塩素消毒が不十分だったとみている。発症者は一般消費者らに広がり、約130人に上った。
野菜には水や土に由来するさまざまな微生物がついている。汚染源のひとつとして考えられるのが牛ふん堆肥(たいひ)だ。染谷孝・佐賀大准教授(土壌微生物学)によると、牛の数%はO157を保菌し、ふんと共に排出する。堆肥化の際の発酵が不十分だと、O157が死滅しないまま畑に使われる。無論、調理の段階でしっかり洗うか、消毒されていれば問題はない。
浅漬けが原因とみられるO157の食中毒では、05年の香川県の6人死亡、00年の埼玉県の1人死亡などの例がある。食の安全に詳しい西薗大実(ひろみ)・群馬大教授(衛生化学)は、洗浄や消毒が不十分だと「浅漬けは菌を培養しかねない」と指摘する。
まず、塩によって野菜から出る水分や調味液など、菌が繁殖しやすい水分がある。また浅漬けは塩分が低く、菌の増殖抑制効果が小さい。保存が利く漬物と思われがちだが、全日本漬物協同組合連合会の脇坂文一・専務理事は「保存食とは言えない」と断言する。北海道大大学院農学研究院の浅野行蔵教授(応用菌学)は「加熱も発酵もしておらず、むしろ生のサラダだと思った方がいい」。たくあんなど一般的な漬物は、パック後に加熱殺菌されるが、浅漬けは食感を損なうため、加熱もされないという。
健康志向で、最近は低塩分と無添加が好まれ「以前より日持ちしなくなっている。加熱殺菌している漬物『きゅうりのキューちゃん』でさえ、開封後1週間もすればカビが生えることがある」と話すのは、キューちゃんの製造元「東海漬物」(愛知県豊橋市)の藤田雅貴・品質保証室長。「野菜の洗浄と殺菌を徹底し、運送中は低温に保つしかない」という。
消費期限の問題も浮上した。岩井食品によると、7月28日に300キロの野菜を漬けた。この中に汚染野菜があったとみられる。うち約120キロを29日に、約140キロを30日に、残り40キロを31日にパックして出荷した。同時に漬けられたが、パック日は3日間にわたり、消費期限はそれぞれ4日後とされた。
消費者庁食品表示課によると、同じ日に漬けた商品に異なる消費期限を表示しても違法ではなく、一般的に行われている。道内のある漬物業者は「商品それぞれに、漬け汁から出して何日もつかのデータがあり、保管中は、細菌数をしっかり管理している」と安全性を強調する。
だが、主婦連合会の佐野真理子・事務局長は「3日も漬ければ品質も安全性も落ちる。消費期限について国が統一的な基準を設けるべきだ」と話す。
浅漬け製造時の消毒法には明確な規定がなかったが、厚生労働省は年内に策定、義務化する。残暑の続く9月、まだまだ食中毒に要注意だ。
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