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なぜ渋滞時は追い越し車線のほうが流れが悪いのか

■利己的行動の結果人はアリにも劣る

高速道路には走行車線と追い越し車線がある。統計によれば、空いている時間帯にはそれぞれ平均時速80キロ、100キロほどで流れている。ところが速度が30キロ以下の「渋滞」になると逆転し、時速数キロほどだが、走行車線のほうが速くなることがわかっている。なぜこのような逆転現象が起こるのだろうか。

車の数が増えて車間距離が短くなると、速度を維持しようと車線を変更して、追い越し車線に移る車が増える。渋滞になるとその割合は5割を超し、追い越し車線を走る車のほうが多くなってしまう。このため追い越し車線のほうが走行車線より混雑し、速度が低下してしまう。

私の専門はこのような「渋滞学」だ。研究によれば、混雑時には、急いで走るよりもゆっくり走ったほうが、目的地により早く着くこともわかっている。

交通がスムーズに流れている状態から渋滞へ移行する臨界密度は、2車線の場合、統計的には1キロメートルあたり50台。平均時速72キロ、車間距離にして40メートル、約2秒ごとに車が行き交うような状態だ。外からはスムーズに流れているように見えるはずだが、このとき多くのドライバーは「そろそろ危ない」「今のうちに急ごう」と考え、速度を上げて、車間距離を詰めてしまう。

車間距離に余裕がなくなると、前後の車はアクセルやブレーキを頻繁に踏み換えることになる。その結果、本格的な渋滞が発生し、自分たちの車も渋滞に巻き込まれてしまうのだ。こうした臨界状態では車間距離を守ってゆっくり走ったほうが、結果として早く到着できる。

本来、週末に発生するような数キロの渋滞は、起こらなくていいはずのものだ。2秒間隔を守り、時間当たり交通量を最大化すれば、渋滞の発生は未然に防げる。しかし私の調査だと、車間距離は混雑時は約1.3秒間隔しか空いていない。適正な車間距離を守れば、燃費も最大で4割ほど向上する。「早く行きたい」「自分が得をしたい」という人間の利己的な行動によって、全員が損をしているのだ。

その意味で人間はアリにも劣る。アリの世界に渋滞はない。インドの研究者と共同で調査した結果、外敵に襲われるといったパニック状態を除き、アリは行列の間隔を詰めすぎることがなく、渋滞を未然に防いでいることがわかった。これは長い進化の過程で獲得した行動パターンなのだと思われる。

人間にもこうした本能的な能力はある。都市部の駅構内のエスカレーターでは、一方に立って並び、片方を急ぐ人のために空けておく習慣が根づいている。これは急ぐ人とそうでない人を分けるという効率的なやり方だが、誰かが指示したわけではなく、自然に発生した仕組みだ。しかしラッシュ時などには、立ったままで上がれる側に長い列ができ、全体の輸送量は落ちる。渋滞の解消には、駅員が「両側にお詰めください」と指示を出す必要がある。

自然の生態系では、指示を受けずとも、渋滞は起きない。人間社会では、駅員のように要所で指示を出さなければあらゆる場所で渋滞が起きるが、社会の隅々まで目を配ることは難しい。

一つの回答は、各人が自主的に協調する「創発」である。そのためには教育を通じて、正しい知識を共有することが有効だろう。

資本主義社会は成長を前提に、個人の欲望を加速させてきた。だが利己的な行動だけでは、渋滞の発生により成長は行き詰まる。サブプライム問題はその一例。渋滞学の知見は、全体最適のためには成長ではなく安定を目指すべきだと教えている。

※すべて雑誌掲載当時

(東京大学教授 西成活裕 構成=久保田正志 撮影=市来朋久、宇佐見利明、坂本道浩 図版作成=ライヴ・アート)

http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_6745.html

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