茨城県取手市の加藤とみ子さん(63)は4月末、美容院で白髪染めをした。翌日の夕方から頭部がかゆくなり、次の日には髪の生え際がコブのように腫れた。顔もパンパンに腫れてきて、目も開かない状態だった。
かかりつけの内科医院に駆け込んだ。肝機能検査の後、アレルギー症状を抑える薬の投与を受け、ようやくまぶたが開いてきてホッとした。腫れが引くまでに6日かかり、仕事も2日休んだ。
「これまでも白髪染めをしていましたが、こんな経験は初めて。毛染め剤が体に合わないと、これほど影響があるのかと驚きました」と加藤さんは振り返る。
◇使い続け突然発症
中山皮膚科クリニック(東京都品川区)の中山秀夫院長は「高齢者人口の増加や、若い人のおしゃれで毛染めをする人が増え、かぶれる人も増えている。『10年使っているのにかぶれるはずがない』と言う患者さんもいるが、使い続けているうちに突然起こることが多い」と話す。原因に気付かず使い続けると、湿疹の悪化を招く。
毛染め剤によるかぶれの原因の多くが、主成分であるパラフェニレンジアミン(PPDA)だ。色持ちがよいため、多くの製品に含まれる。PPDAが皮膚に繰り返し接触すると、体の免疫反応がこれを排除しようとアレルギーを起こすことがある。
中山院長は「ゴムの老化防止剤や衣類の染料も、PPDAと構造の一部が同じであるため、PPDAにかぶれた人は、ゴムや染料にもかぶれることがある」と話す。
症状が出た場合には、パッチテストで原因を特定することが大切だという。原因物質へのアレルギーはずっと続くが、接触しなければ症状の再発を防げるからだ。パッチテストは通常、原因とみられる物質を皮膚に貼って、2~7日後の間に3回、反応を見る。
PPDAが原因だと分かれば、PPDAを含む毛染め剤は使えない。同クリニックでは、患者が希望すれば、PPDAを含まない黒色に染まる毛染め剤を勧めている。植物色素を使った「ヘナ」と呼ばれる毛染め剤にもPPDAが含まれる場合があり、注意が必要だという。
かぶれは、医学的には接触皮膚炎と呼ばれ、刺激物質やアレルギーを起こしやすい物質(抗原)が皮膚に接触することによって発症する。古くからウルシなどの植物によるかぶれが知られるが、洗剤▽シャンプー▽化粧品▽アクセサリーやピアスの金属(ニッケルなど)▽ゴム製品▽外用薬――など、さまざまな原因で起こる。
最近では、00年8月まで生産されたコクヨS&T社の抗菌デスクマットの使用者で、腕などにかゆみや赤く腫れるなどの被害が相次いだ。製品評価技術基盤機構の調査で、有機系抗菌剤と断続的に接触したことによる皮膚炎だと分かった。同社は06年から回収しているが、約1200人の被害が報告された(10年7月時点)。
また、国民生活センターによると昨年、水にぬらして首などに巻くとひんやりする「冷感タオル」で「湿疹が出た」などの苦情が寄せられた。8製品を調べたところ、7製品に接触皮膚炎を起こす恐れのある防腐剤が含まれていた。節電意識の高まりで冷感グッズが人気だが、同センターでは「タオルが固まらないように、防腐剤を含んだ水を染み込ませた製品もある。開封後は必ずぬるま湯でよく洗い、皮膚に異常を感じたら専門医に相談を」と助言している。
◇保湿でバリアーを
接触皮膚炎を防ぐ対策はあるのだろうか。
東京医科歯科大の高山かおる講師(皮膚科)は「洗い過ぎなどで皮膚が乾燥していると、原因物質が入りやすくなる。乾燥したらしっかりと保湿して、皮膚のバリアーを保つことが大切」と指摘する。また「化粧品で皮膚炎を起こすと『すべて使わない』と過剰反応する人もいるが、日焼け対策は必要。低刺激の製品を選び、首や腕の内側で試してから使ってほしい」と話している。【下桐実雅子】
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◇接触皮膚炎を起こす部位と主な原因
<頭髪部>
毛染め剤、シャンプー、育毛剤、ヘアピン
<顔面>
化粧品、外用薬、花粉、日焼け止め剤、めがね
<目の周り>
点眼薬、ビューラー、化粧品
<唇・口の周り>
口紅、リップクリーム、歯磨き粉、マンゴーなどの食物、金属
<耳>
ピアス、補聴器、めがね
<首>
ネックレス、衣料用洗剤
<手>
洗剤、手袋
<腕>
ブレスレット、時計、洗剤、抗菌デスクマット
*接触皮膚炎診療ガイドラインを基に作成
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120702ddm013100043000c.html