[ カテゴリー:災害 ]

<特集ワイド>どうすれば安全安心 「釜石の奇跡」に貢献、片田敏孝教授に聞いた「首都直下」

◇不安になるより動け

迫り来る「震度7」級の首都直下地震。不安を感じながらも「変わらぬ日常」を過ごし続ける大都市の人々は、この災いに立ち向かえるのか。東日本大震災で、津波からほとんどの子供たちが生き延びた「釜石の奇跡」に貢献した片田敏孝・群馬大工学部教授に、どう備えるかを聞いた。

◇「どう行動」に答えはない 地形、地盤、家族…条件はさまざま

◇「20年」区切りに次代育てる 国、行政待たず、自分で考え

<災害社会工学を専門とする片田さんは、04年から岩手県釜石市の防災・危機管理アドバイザーとして、防災教育に取り組んだ。片田さんが唱える津波対策の柱は(1)想定にとらわれない(2)最善を尽くす(3)率先避難者になる――の「避難3原則」だ。東日本大震災では、市内の小中学14校の生徒約3000人が避難。生存率は99・8%に達し「釜石の奇跡」として語り継がれることになった。

一方、マグニチュード(M)7級の首都直下地震は、東大地震研究所のチームが「4年以内に70%の発生率」とするなど、いつ起きてもおかしくない。3月には文部科学省の研究班が、従来想定の震度6強より大きい震度7の揺れが予想されると発表。東京都防災会議は、東京湾北部を震源とする地震の場合、建物30万棟が全壊・焼失し9700人が死亡するとみる>

首都直下地震に不安を感じている方は多いでしょう。予想される最大震度が上がり、被害想定もより深刻化したのですから、「怖い」と思うのは当然の心理です。

同時に、巨大地震が明日にも起きるかもしれない、死ぬかもしれないという恐怖の中で生きるのも無理。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価しようとするのも人間です。

大切なのは、やみくもに怖がったり、目を背けようとするのではなく、まず「想定とは何か」を正しく理解することなのです。「想定」とは起こりうる可能性であり、「現実」ではありません。

首都直下の新しい想定が示される前と後で、大自然の営みは何一つ変わっていません。「いつか大きな地震がやってくる」という可能性は、ずっと以前から、そしてこれからもあり続ける。必要なのは、新しい想定によって「不安になること」ではなく「行動すること」。リスクを正確に把握し、合理的に判断することなのです。

それぞれの土地には本来、「この辺りは地盤が弱いから家は建てない方がよい」「この斜面は崩れやすい」など代々、伝えられてきた災害文化、地元の特性があります。埋め立てなどで地形が変わったり、住民の移動も多い首都圏は、その土地に関する情報の正確さという意味では「災害に弱い」かもしれない。

けれど、釜石市のような地方都市でも、堤防が完成して「水害はもう昔のこと」という“安全神話”を皆が信じるという現実があった。

リスクを正確に把握するにはまず、地元の特性を知り、そこから災害の備えを考えること。その大切さは、首都圏であろうと地方都市であろうと変わらないのです。

<「不安」だけではない。東北地方を襲った東日本大震災とは違い、政治や経済の中枢である首都圏だけに、いざとなったら「国や都など行政が何とかしてくれる」という心の隙(すき)はないだろうか。記者が「地震の際にはどう行動すべきでしょうか」と質問した途端、片田さんの表情が厳しくなった>

厳しいことを言えば、その質問が出た時点で「失格」ですよ。そんなふうに一律の答えを求めるのは、防災を主体的に考えていない証拠です。

従来、防災は「個人の力ではたちうちできない」という考え方の下、行政主導で進んできた。公共事業で堤防を造り、注意報や警報を出し、避難勧告を出す、と。しかし、そのせいで、自分の命を自分で守るために主体的に行動することの重要性が忘れられてしまったのではないか。

主体的に行動するとは、避難でいえば、いつ、どう逃げるか、自ら判断し行動に移すことです。釜石のケースでは、津波から率先して逃げる姿を見せた小学生、指定避難所に着いたものの「ここは危ない、次へ行こう」と言った中学生、全員が防災教育で学んだ「主体的に考える」ということを実践してくれました。

日本は災害大国であると同時に、防災大国であり、ある意味で過保護状態にある。避難勧告にせよ、地震への備えにせよ、国や行政が何かをしてくれるまで動かない、では生き残れません。「死なない防災」イコール「主体的になること」なのです。

そもそも「首都圏」と一口に言っても、丘陵地か沿岸部か、地盤が固いか緩いか、高層ビルか木造住宅密集地か、さらに家族に高齢者はいないか、障害者はいないか……というように同じ条件の人は一人としていないし、それぞれ地震の際に取るべき行動は異なります。ハザードマップ(災害予測地図)は地元の市役所や区役所で手に入るし、「助け合おうにも、住民のつながりがなくなった」と言うなら、避難訓練に参加するなどしてつくればよいのです。自分に必要な情報は何かを考え動いてみれば、求める情報は全て身の回りにあることに気付くでしょう。

人がそこに暮らしているのは、何らかの選択の結果としてです。快適だから、通勤に便利だから、理由はさまざまでしょう。そこにもう一つ、「災害が起きた場合」という想定を加えてみてください。そうして考えられるリスクを受け入れられるなら住み続ける。しかし、どうしても受け入れられないなら、そこを離れるという考え方も必要になってきます。

<記者も都内在住。片田さんの話を聞きながら自宅周辺の地形を思い浮かべようとしたが、急傾斜地があったか、避難場所となる広場があったかも分からない。防災を意識して眺めたことはなかった>

釜石市などでの防災教育の対象に子供たちを選んできたのは、「防災意識を持った人を育てる」という意味があったからです。だからこそ、すぐに結果が出ることは期待せず「20年」を一区切りとして考えていました。彼らが大人になり、さらに次の世代を育てる時にこそ、本当に防災意識が浸透するだろうと。

これは本来、首都直下地震を考える場合も同じ。しかし地震は明日にも来るかもしれない。ならば、一人一人が意識を変えるしかない。誰かが代わりにやれることではないのですから。

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■人物略歴

◇かただ・としたか

1960年岐阜県生まれ、豊橋技術科学大学卒。群馬大学広域首都圏防災研究センター長。防災教育や避難誘導のあり方の研究に従事し、岩手県釜石市や三重県尾鷲市などで地域の特性に合った防災対策を自治体や住民とともに進めている。

http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120509dde012040018000c.html

 

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