春は入学・進学、入社・異動・転勤などで環境がガラッと変わる季節。大きな変化がある時、人は不安や孤独を感じるものだが、心を操ろうという輩は、そうした隙を突いてくる。カルト教団、霊能者、マルチをはじめとした悪徳商法……有名人でなくとも、マインドコントロールに遭遇する可能性はある。オウム事件で専門家証言や鑑定を行なった社会心理学者の西田公昭・立正大学教授が、その最新手口を解説する。
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マインドコントロールを用いた新興宗教の勧誘や悪徳商法の手法は、時代の流れとともに変化するものだが、最近、新たな手口が見られるようになっている。
7000~8000人の信者がいるとされる、ある新興宗教団体の最前線にいる信者の話では、フェイスブックやミクシィなどのSNSを使うのが、有効なのだという。
たとえば、大学生を勧誘したい場合、SNSサイトで大学名の検索をかけると大学関係のコミュニティ(グループ)がヒットする。そこから、入学間もない18~19歳の学生をターゲットにするのだ。
SNSには「いいね!」といった、相手の書き込みなどを称賛したり、関心を示したりできるボタンがある。ターゲットにいきなりメッセージ(メールのような機能)を送ると警戒されるので、まずはターゲットの書き込みに対し、この「いいね!」を押す。何度か繰り返すと、ターゲットは「“いいね!”をつけてくれた人はどんな人だろう?」と気になって、自分のページを見にきてくれるようになる。そこから交流を始めるというわけだ。
ターゲットの日記に書かれてあることやコミュニティの情報から、興味のあることを話題にして警戒心を薄れさせ、徐々に近づいていき、リアルで会う機会を狙っていくのである。
昔は、例えば大学では入学式や授業のオリエンテーション、サークルを利用して近づいたものだが、そんなことをするまでもなく、インターネットを用いて簡単に相手の情報を得ることができるようになった。SNSには、好きな音楽や映画といった趣味や、家族構成、住んでいる場所など、多くの個人情報が詰まっている。つまりターゲットにとって「趣味が合う人」を演じやすく、近づきやすいのだ。彼らからすれば“やりやすくなった”わけである。
そもそも、マインドコントロールは洗脳と同義のように扱われることが多いが、厳密には別の概念である。
簡単に言うと、身体的拘束など、外部からの物理的な力で相手の自由を奪ったうえで価値観・人生観を変えようとするのが洗脳で、暴力的なことをせずに社会心理的な手法を用いて人を誘導するのがマインドコントロールだ。
ではマインドコントロールと、単純な騙りによる詐欺、恐怖心をあおる悪質な販売方法などとの区別がどこにあるかというと、“程度の問題”でしかない。
すなわち、多額の財産を寄付という形で奪われたり、人生を狂わされたり、殺人さえも含む反社会的な行為をさせられたりするのがマインドコントロールであると言える。ただし、どこまでが抗えない支配だったのかの境界線ははっきりと引けないため、事案によっては摘発が難しい実情がある。
※SAPIO2012年4月25日号
http://news.goo.ne.jp/article/postseven/life/postseven99921.html