新聞などで「株価は経済のバロメーター」といった表現を見かけます。バロメーターは目安とか、指標といった意味で使われています。そもそもバロメーターは「気圧計」という意味の英語で、気象観測の代表的な数値を目安のたとえとして使っているわけです。
ところで「圧」といえば、人の体の状態を知るための指標として血圧が用いられます。血圧を測定する装置はマノメーターというので、「血圧は健康のバロメーターだ」という使われ方は妙な感じがします。でも、血圧は人の健康状態を色濃く反映しているので、悪い表現ではありません。
血圧とは動脈を血液が流れる際に生じている圧力のことで、動脈血圧というのが正確な表現になります。動脈内を血液が流れる原動力は、心臓の収縮力です。心臓が収縮して血液を動脈へ押し出すことで、動脈内に圧力が生じ、その圧力が、血液をさらに全身へ流し込みます。心臓は収縮しきると、一旦拡張に転じて、そのあいだ心臓の力は動脈へ伝わりません。そうなると、血圧は急になくなる恐れがありますが、実際には血圧は比較的なだらかに減少していきます。動脈の壁に弾力性があり、心臓が収縮したときに押し広げられた動脈壁が元に戻ろうとするので、それによる圧力のため、急激に減少しないのです。
その後、心臓が再び収縮して血液が動脈に送り出されると、血圧は上昇を始めます。つまり血圧は、心臓の動きに応じて上下を繰り返すということです。なので、最高血圧と最低血圧の両方を同時に測定しなければならないのです。
体は寝たり、立ったり、座ったり、常に動いています。この状態の変化に対応しつつ、血液循環を一定に保つため、自律神経やホルモンが複雑に絡み合って、心臓や血管の働きを巧みに制御しています。したがって、通常は安定しているように見える血圧も、ちょっとした体調の変化ですぐに変動します。運動すればすぐに上がるし、ストレスや寝不足なども上昇の原因になります。というわけで、血圧の安定性は、その時の体調の反映ともいえます。血圧は血液循環の原動力であり、確かに健康の「バロメーター」になり得るのです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)
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