高齢になっても、おむつを使わず、トイレで排せつをしたいと考える人は多い。リハビリや、福祉用具を使うことなどで、トイレで排せつができるようになった人もいる。自宅で、快適な排せつを実現するためのポイントを探った。(小山孝)
◇
「夫のおむつを替えていた頃は、寝不足でいつも死にたいと思っていました」と、横浜市のAさん(80)は振り返る。
3年前の春、夫(83)が脱水による意識障害で3か月間入院した。退院後はベッドで寝たきりの生活。おむつ交換はヘルパーの手を借りたが、夜はAさんがやった。おむつから尿が漏れることも多く、シーツ交換や着替えに追われた。見かねたケアマネジャーがその年の秋、Aさん夫婦に関わる介護関係者らで会議を開き、対策を練った。
高齢者がトイレで排せつできなくなる理由は様々だ。ぼうこうの病気がある場合、治療が優先される。尿意や便意がない、トイレに間に合わない、便座に座れないなどの原因もある。認知症の人の場合、トイレの場所がわからなくなることもある。
Aさんの夫の場合、尿意はあり、ぼうこうの病気もなかった。何より、「トイレで排せつをしたい」との気持ちが強かった。
訪問看護師や理学療法士らによる訓練では、まずベッドに腰を掛け、反り返らずに数分、姿勢を保つことを目指した。トイレで座る姿勢を維持するためだ。2か月後には立ち上がれるようになり、ベッドから車いすへの移乗や、歩行の訓練も始めた。ベッドをトイレ近くに移して、壁に手すりを取り付けた。
取り組みから1年。夫は、Aさんが下着を上げる際に手伝うだけで、トイレで排せつできるようになった。横浜市リハビリテーション事業団の理学療法士、山崎哲司さんは「病気や障害にもよるが、本人や家族に意欲があれば、リハビリなどでトイレで排せつできるようになる人はいます」と話す。
おむつがあるから安心して外出できたり眠れたりする人は多いが、安易なおむつの使用が生活への意欲を低下させることもある。まずは、おむつ以外に選択肢はないかを検討することが必要で、その際、頼りになるのが、様々な福祉用具だ。
大阪府の男性Bさん(68)は、洋式トイレの便座が15センチほど上下する「昇降便座」を使っている。神経の難病で自力では立ち上がれない。だが、便座が上下するため、介助者なしで座ったり、立ったりすることができる。Bさんは「妻には迷惑をかけたくないから」と笑顔を見せる。
このほか、便座に乗せ座面を10センチ程度高くする「補高便座」を使うと楽に立ち上がれる。手すりの種類も様々だ。Bさん宅のトイレ改修を担当した「ケアショップ ハル」(大阪府阪南市)の高延政之社長は「寝室をトイレに近い部屋に変えたり、立ち上がりやすいように布団を介護用ベッドに変えたりと工夫できる点は多い」と指摘する。
家の間取りを変える方法もある。神奈川県綾瀬市の男性Cさん(77)は今年、広さ1畳程度のトイレの壁を取り払い、洗面所や廊下の一部と合わせて3畳半に拡張した。神経の難病で年々歩くことが難しくなっているため、車いすでも便座に移りやすいように広い空間を確保した。工事費用は85万円程度。「しばらくは自分でトイレに行けそうです」とCさんは満足そうだ。
排せつ全般の相談で困った場合は、地元にある総合相談窓口「地域包括支援センター」に尋ねるのも一つの方法だ。「高齢生活研究所」(京都市)の浜田きよ子所長は「トイレに行くこと自体がリハビリになり、介護者の負担軽減にもなる。排せつの問題を考えることは、生活全体を見直すことにもつながります」と話している。
浜田さんが代表を務める排せつ用具の情報館「むつき庵」では、排せつに関する相談も受け付けている((電)075・803・1122)。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=56498