精神的な問題と思われることが実は胃腸の状態によって引き起こされている可能性もある。
食道や胃腸が消化以外の多くの身体機能に影響を及ぼしていることを示す研究が増えている。骨形成や学習、記憶、さらにはパーキンソン病といった疾病と消化管の健康の興味深い関係が研究で明らかになってきた。最近の研究では、胃の不調や腸内細菌がうつ病や不安神経症を促している可能性のあることが少なくともマウスの実験で分かった。
消化管と脳の間の情報伝達をさらに解明すれば、幅広い疾病の原因特定や治療に役立つとともに、診断の糸口を医師に提供できる可能性がある。
米スタンフォード大学医学部の消化器科および肝臓病科の部長を務めるパンカジ・パスリチャ教授は「消化器系関連の問題だけでなく、その他の身体に関連した問題で、消化管に注目することは医学研究上重要だ」と指摘する。
食道から胃、腸まで一本につながっている消化管は独自の神経系を有し、脳とは独立して機能している。
この腸神経系は研究者の間で「腸の脳(gut brain)」として知られている。腸の脳は神経の接続を通じてすい臓や胆のうなどの臓器をコントロールしている。消化管で分泌されるホルモンと神経伝達物質は肺や心臓といった臓器と相互作用する。
脳や脊髄(せきずい)と同じように、消化管にも無数の神経細胞がある。コロンビア大学のマイケル・ガーション教授によると、小腸内だけでも100万個の神経細胞が存在しており、この数字は脊髄内とほぼ同数であるという。
脳と消化管をつなぐ主な導管の役割を果たしているのは、脳幹から下に伸びる迷走神経。しかし、消化管は脳から指令を受けるだけではない。
ガーション教授は「脳はマイクロマネージメントを好まないCEO(最高経営責任者)のようなものだ」と語る。脳が消化管に送り込む情報より、消化管が脳に伝達する情報のほうがはるかに多い。
精神病や脳疾患の患者が胃腸障害を訴えるケースも多い。新しい研究からは、不安神経症などの精神疾患が腹痛を誘発するように、消化管内の疾患が脳疾患の原因になっている可能性もあることが示されている。
パスリチャ教授らはこの問題を研究するために、生まれたばかりのマウスの胃を刺激するという実験を行った。これらマウスは8~10週間後までに身体上の障害がなくなったものの、泳ぐ運動をさせても普通のマウスより早く止めてしまうなど、胃を刺激されなかったマウスに比べ、うつ状態や不安の大きい行動を示したという。
こうしたことから、脳に針を刺す脳生検をせずに、通常の大腸内視鏡検査で摘出できる消化管の神経細胞によって疾病を突き止めるといった研究も進んでいるという。
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_376807?reflink=Goo&gooid=nttr