栃木県鹿沼市で昨年4月、登校中の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故は、20代の運転手のてんかん発作が原因だった。てんかんは3歳以下で発症することが多いが、高齢になってから脳卒中などが原因で発症することもある。だが、認知症などと間違われやすい症状のため、専門家は「(呼びかけなどへの)反応にムラがあったらてんかんを疑って」と注意を促している。
てんかんは、発作を繰り返し起こす大脳の慢性疾患。乳幼児期から老年期まで幅広い世代で発症する。最も多い3歳以下での発症は、出産時のトラブルによる脳の損傷や感染症などが原因だ。しかし、10代や成人も交通事故などで頭部に外傷を負ったり、脳血管障害・脳腫瘍・脳炎などの病気にかかったりすると、発症することがある。60歳以上では、脳卒中・動脈硬化・アルツハイマーなどが原因で発症率が高まるという。
◆症状は「地味」
「高齢化に伴い、今後は高齢のてんかん患者が増えてくるだろう」と話すのは、九州大学病院(福岡市東区)神経内科の重藤寛史(ひろし)診療准教授。一般にてんかんの発作というと、手足をガクガクさせるなどの様子をイメージする人が多い。だが、「高齢で発症したてんかんは症状が地味なのが特徴。意識が減損するだけで、失神・めまい・認知症などと区別しにくく、見逃されやすい」(重藤診療准教授)ので注意が必要だ。
重藤診療准教授によると、症状の例としては、目の焦点が合わない▽舌なめずりするように口をぺちゃぺちゃさせる▽ペンを何度も持ったり置いたりするなど無意味な行動を繰り返す▽意味なく動き回る▽何年も前のことは覚えているのに最近あった重要なイベント(旅行や子供の結婚式など)の記憶が前後関係なくすっぽりと抜け落ちている▽呼ぶと生返事をするが、後で聞くと返事をしたことを覚えていない▽反応が鈍い-などが挙げられる。
◆「時々」が特徴
「自動症」と呼ばれるこれらの症状は一見問題ない言動に見えるが、受け答えが会話のつじつまに合っていなかったり、やっている動作が無目的だったりする。また、本人に後で聞いても覚えていない。家族らのてんかんを疑ったら、神経内科・脳外科・老年科などに付き添い、受診してもらおう。
重藤診療准教授は「認知症と異なるのは、普段はしっかりしているのに時々こうした症状が現れること」と強調する。「周りの人は『何だかぼけているな』と見過ごしがちだが、診断ではこうした症状が何日かに1回あるとか1カ月に1回あるとか、そういう情報が重要になる」。余裕があれば、携帯電話などで症状が現れたときの様子を動画に撮り、医師に見てもらうと良いという。
【用語解説】てんかん
大脳の神経細胞が異常に興奮し、繰り返し発作を起こす慢性の脳疾患。発作が起こると、意識を失ったり手足がけいれんしたりするが、大半は数秒~数分で回復する。7~8割の患者は薬物治療により発作を抑えることができる。高齢で発症した場合、抗てんかん薬の副作用(眠気・ふらつきなど)が出やすいことなどから、少量から始めることが多い。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/bizskills/healthcare/snk20120117121.html