◆レビー小体型認知症 患者数はアルツハイマー型に次ぐ多さ。
◇幻視、動作障害など特徴
東京都目黒区の女性(67)は07年冬、母親(91)が暮らす世田谷区内の有料老人ホームの職員から電話を受けた。母親が幻を見たり、午前3時ごろに「朝食に間に合わないから」と着替えて階下へ降りてくるという。
女性は驚いた。母親は歩くのが困難で、自分から「施設に入りたい」と2カ月前にホームへ移ったばかり。1人暮らしのころは料理や洗濯、お金の管理もなんとかこなしており、普段は頭もしっかりしている。
他にも「柱が変形してキツネが飛び出してくる」などさまざまな幻を見ていた。女性が「私には見えないわ」と話すと母親も納得するが、幻視は続いた。翌年2月にかかった病院で「レビー小体型認知症の疑いが高い」と診断された。
06年秋、川崎市宮前区の女性(44)が1人暮らしの義父(74)に会いに行くと、カーテンを閉めて引きこもり、うつ状態だった。「家がゆがんでいる」と幻視を訴え、翌年春にレビー小体型認知症と診断された。
08年秋から同居を開始。会話をしている最中に突然何かを凝視して黙り込んだり、目をつぶってしまう。女性は「何が原因でスイッチが切り替わるか分からない。時間がたてば戻るので、義父のペースに合わせて見守っている」と話す。
◇記憶力低下遅く
レビー小体型認知症は、(1)人や虫などリアルな幻視(2)認知機能の変動(3)パーキンソン症状(4)寝言で叫び声を上げるなどのレム睡眠行動障害――など特有の症状がみられる。
「レビー小体」と呼ばれる異常たんぱくが大脳皮質に出現して発症するが、原因は不明だ。このレビー小体が脳幹に増殖するとパーキンソン病を発症する。本質的には同じ病気とされ、レビー小体型認知症の人にも、手足のこわばり、小刻み歩行、前かがみ姿勢、嚥下(えんげ)(のみ下し)障害などが表れる。
一方、初期から中期にはアルツハイマー型に顕著な「記憶力や判断力など認知機能の低下」はあまり見られない。その代わり、1日や1週間、1カ月の間に、頭がはっきりしている状態とぼんやりしている状態が入れ替わる「認知機能の変動」があり、介護者は対応に苦しむ。進行すると自律神経に沿ってレビー小体が全身に広がり、起立時や食後の低血圧で失神したり、大量の汗、極度の便秘など自律神経障害も起きる。
76年以降の一連の研究でレビー小体型認知症を発見した横浜市立大学名誉教授の小阪憲司医師によると、認知症患者の約2割がレビー型で、アルツハイマー型(約半数)に次いで多い。にもかかわらず医師の認知度はまだ低く、誤診が多い。
小阪医師は「高齢でアルツハイマー型認知症、うつ病、パーキンソン病のいずれかが疑われる場合、必ずレビー小体型認知症のことも頭に置いて診断すべきだ」と指摘する。幻視が出る前にうつ状態が10年続いた人や、パーキンソン症状だけだった人もいる。
名古屋フォレストクリニック(名古屋市緑区)の河野和彦医師は昨年、分かりやすくチェックできる「レビースコア」=表=を公表した。
◇転倒注意し介護
公的に認められた治療法はまだない。小阪医師はアルツハイマー型認知症向けのドネペジル塩酸塩(先発医薬品名・アリセプト)、抗パーキンソン病薬、幻視を抑える漢方の抑肝散を中心に処方している。ただし、薬に過剰に反応する薬剤過敏性があるので注意が必要だ。特に抗精神病薬に敏感で、うつ病と誤診され、薬のためにパーキンソン症状が悪化したり、過鎮静になることがある。
過敏性は個人差が大きい。世田谷区の女性は強い興奮状態が出たり体が傾いたりと副作用に悩まされた。一方、川崎市の男性は大きな問題がない。河野医師は「どの薬も少量から試し、注意深く観察しながら量を調節していくことが大切」という。河野医師は、副作用が少なく認知機能の回復に効果があるという健康食品も勧めている。
介護はパーキンソン症状や失神による転倒に要注意。床に物を置いたり段差は避ける。幻視はしっかり話を聴いて「病気のせいだ」と伝えたり、怖がっている場合は追い払うなど演技も必要。暗い場所で見ることが多いため、部屋を明るくし、見間違えそうな物は片付ければ幻視を減らせる。
世田谷区の女性は初期のころ、意味不明なことを口走っても、我に返ると「私、おかしかったわね」と娘に話すこともあった。本人は自分の変化を認識していることもあるので、その人を尊重した接し方が大切だ。
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◇レビー小体型認知症のチェック項目(合計3点以上なら疑いが強い)
□薬剤過敏性(かぜ薬などが効きすぎたことがある)=2点
□幻視=2点/妄想(人がいるような気がする)=1点
□意識消失発作(てんかん発作除く)=1点
□夜間の寝言=1点/夜間の叫び声=2点
□嚥下障害(食事中にむせる)=1点
□趣味もないほど真面目=1点
□日中に半ば眠ったような状態になる、1時間以上昼寝する=2点
□安静時に手足が震える=1点
□歯車現象(力を抜いた患者の腕を取って動かすとガクガクする)=2点/ファーストリジッド(動かす最初だけガクッとなる)=1点
□体が傾斜することがある=2点/軽度の傾斜=1点
(名古屋フォレストクリニック・河野和彦医師作成)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20111211ddm013100011000c.html