台湾の業者から日本へ輸出され、発煙・発火の恐れがあるとして輸入元が自主回収し返品したポータブルDVDプレーヤーなどの一部、約9千台を、別の業者が今年5~9月に再販売した可能性が高いことがわかった。返品先から、複数の業者を経て日本に還流したらしい。
複数の関係者によると、問題の製品は「axion(アクシオン)」ブランドのAXNシリーズなど。輸入事業者の長瀬産業(大阪府)が台湾メーカーの関連会社から購入した。2003年6月から、製造不良を理由とした自主回収・返金が始まった07年7月までに、大手家電量販店などで、約47万台が販売された。
回収率は今年10月末時点で44%。回収品の一部は国内で廃棄処分されたが、大半は台湾側に返品された。
しかしその後、海外のブローカーがこれらを購入。今年4月、輸入卸販売業のデジタルランド(長野県)がうち約4万7千台を買い取り、国内に再輸入を開始した。卸先のインターネット販売業者が5月にネットで売り始めたが、9月上旬、自主回収品と気づいたために販売を中止したという。その時点で約9千台が売れていた。購入者には今も自主回収品だと伝えていないという。
デジタルランドは「長瀬産業は自主回収した製品をきちんと処分せず、安易に返品した過失を認めるべきだ。その過失で被害を被るのは消費者なのだから、一切関係ないという姿勢は許されない」と主張。保有分を買い取るよう求めており、10月に東京簡裁に民事調停を申し立てた。
一方、長瀬産業は朝日新聞の取材に対し「当社が自主回収した製品の可能性はある」と認めた上で「日本市場に再び出回らない手はずは当然とっていた。なぜこうした事態が起きたのか原因究明中だ」と答えた。
同社は09年までに約65億円の回収費用をかけた。「一般消費者には今後も真摯(しんし)に対応するが、不当な利益を得る目的による買い取り請求だと判明しているものには厳正に対応する」と主張している。
経済産業省によると、自主回収された製品が大量に再販売される事態は前例がないという。
事業者が自主的に行うリコールには、自動車や白物家電で主流の無償点検・修理(改修)と、食品や小型の家電などで一般的な、代替品との交換または返金(回収)がある。家電の回収の場合、修理解体や廃棄処分が確実にされないままだと、別の事業者の手に渡り再販売されかねない。
経産省は、長瀬産業は返品した時点で所有権を失うことから、デジタルランドがその製品を再輸入したとしても、長瀬産業にその分の回収の責任は生じないとの見解だ。
法の限界もある。デジタルランドにも、回収の責任は自動的には生じない。消費者がデジタルランドの再輸入品でけがをすれば、製造物責任法(PL法)上の責任は同社が負う。それでも回収するかどうかの判断は、あくまでもデジタルランドに委ねられている。
デジタルランドは「販売再開の考えは現時点ではないが、在庫を大量に抱えて困っている」と言う。万が一、資金を回収するために販売が再開されれば、消費者に危険な製品のツケが回ることになる。
経産省には消費生活用製品安全法に基づき、製品の回収を強制的に命じる権限がある。05年に松下電器産業(現パナソニック)の石油温風機、06年と08年にはパロマ工業のガス瞬間湯沸かし器について命じた。
だが、この件では現段階で発煙などの事故が5件だけ。死傷者は出ておらず、「回収の指導はできるが、命令は難しい。再販売を強制的にやめさせるのも現行法では難しい」(経産省製品安全課)という。
消費者庁は「経産省に早急な事実確認を要請しており、事実が確認された場合には消費者に注意喚起する。業者が製品の回収を行うよう経産省に指導を要請したい」とコメントしている。(茂木克信)
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■長瀬産業が自主回収中のDVDプレーヤー■
◇ポータブルDVDプレーヤー(販売時期:2003年6月~07年7月)
axion AXN2548、2588、3539、3588、3589、3709、3808、4109、4709、4809、5109、5429、5709、5807、5909、6109、6608、6705、6709▽ROSSINI RPD7100、7700▽AUDIOVOX D1708▽INSIGNIA NS-7PDVDA
▽BCHW-0001(シャア専用モデル、販売元:バンダイビジュアル)
▽AXN2708WB(販売元:ベスト電器)
◇液晶テレビ付きDVDプレーヤー(販売時期:05年1月~06年9月)
axion AXN31005
(長瀬産業の相談窓口は、0120・181・655)
http://www.asahi.com/national/update/1209/TKY201112080781.html