福島第1原発事故の損害賠償指針を策定する国の原子力損害賠償紛争審査会は6日、政府指示ではない「自主避難」への賠償について協議し、福島県内23市町村の自主避難者と避難せずにとどまった「滞在者」を一律賠償の対象とすることなどを決定した。賠償額は高校3年生(18歳)以下の子どもと妊婦は1人当たり40万円、それ以外は8万円。8月にまとめた中間指針の追補として盛り込んだ。 自主避難者は生活費や移動費など経済的負担が増える一方、滞在者は放射線被ばくへの不安や行動制限などで精神的苦痛が大きいとして、賠償は両者同額とした。 算定に当たり、子どもと妊婦は、放射線への感受性が高いとして、少なくとも12月末までを賠償の対象とした。来年1月以降はあらためて検討する。ほかの住民は事故発生当初のみを対象にした。 対象市町村は原発からの距離や避難指示区域との近接性などを考慮。福島、伊達市など県北、郡山、須賀川市など県中のともに全市町村と相馬市、新地町、いわき市。対象となった一部市町村より原発に近い宮城県丸森町は対象とならなかった。 基本的に23市町村の全住民が対象で、人数は福島県人口の約4分の3に当たる150万人、うち子ども・妊婦は30万人とされる。賠償額は12月末までの概算でも約2000億円に上る。 審査会の能見善久会長は「実費賠償も一つの考えだが、請求する側も負担で、賠償が進まない。共通して賠償を認めて問題なさそうな金額とした。東京電力としても拒否できず、賠償の迅速化につながる」と述べた。 今回の決定について福島県の鈴木正晃原子力損害対策担当理事は「賠償対象は広がったが、まだ限定的だ。全県民、県内全地域を賠償対象にすることを指針に反映させるようこれまで通り国に求める」と述べた。
◎額や地区根拠あいまい
【解説】原子力損害賠償紛争審査会が6日に決定した中間指針追補は、自主避難の正当性を認め、滞在者の精神的苦痛にも配慮して一律賠償とするなど、方向性は評価できる。しかし、迅速な賠償を優先させるあまり自主避難の実態とかけ離れている印象は拭えず、賠償額や対象地区の設定では根拠にあいまいさも目立った。 国の指示なしに避難したことに対し、コミュニティーや職場などで肩身の狭い思いをした自主避難者は少なくない。審査会が自主避難を「やむを得ない面がある」と認めた意義は大きい。 一方、自主避難者は避難に伴う「実費」がかさんでいるが、賠償の上乗せとしては考慮されなかった。審査会は、これら実費と滞在者が抱える放射線被ばくへの不安などを「同額とするのが公平かつ合理的」と評価したが、根拠は分からず、強引な印象すら与えた。 賠償額は避難指示区域への賠償を参考に、それを超えないよう設定しただけで、合理的と言えるかは疑問だ。対象地区の線引きでも、賠償対象となった須賀川市と原発からの距離や空間放射線量が、ほぼ同じ宮城県丸森町が外れるなどあやふやな点が残る。 審査会の能見善久会長が言うように、指針は最低限共通する損害への賠償を示したにすぎず、個別の請求は当然認められる。東京電力は指針を金科玉条にして記載外の事案を排除することなく、一つ一つ誠実に対応すべきだ。(東京支社・石川威一郎)
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/12/20111207t61012.htm